誰が乗る?タイに渡った元JR北「キハ183」ツアー 参加者はほぼ地元客、まるで「昭和の団体旅行」

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そうこうしているうちにバンコク市街を抜け、車窓は一面の水田地帯になっていた。しかし、一通り提供されたものを食べ終わると、休む暇もなくチャチュンサオである。キハ183はチャチュンサオ駅をそのまま通過してしまうが、これは駅先にあるバンパコン川にかかる橋梁上で停車し、記念撮影の時間を設けているからである。

チャチュンサオの橋梁上で停車するキハ183
チャチュンサオ駅の先の橋梁上で小休止するツアー列車(筆者撮影)

チャチュンサオ駅に戻り、駅前に停車している貸切バスに乗り換える。添乗員が先頭で持っているボードにも「KIHA」、貸切バスにも「KIHA」と張り出されている。最初に向かう先は、チャチュンサオ最大の寺院、ワット・ソートーン。無病息災にご利益があるとされるソートーン大仏を目当てに全国から参拝客があるという。しかし、引率されるがままに講堂で始まったのは高僧による説法である。タイ人観光客は真摯に聞き入っており、信仰の高さをうかがわせるが、タイ語のわからない外国人観光客は、蚊帳の外というほかない。

そんな中、筆者は変なところに目が行ってしまった。座っている椅子の色である。実際は上から白い布がかかっているが、布の隙間から見えた前の座席の色はキハ183のラベンダー色ではないか。その後、バスのロゴに目をやると、これもラベンダー色である。というより、釈迦の袈裟の色というのが正しいだろう。あくまでも筆者の勝手な解釈であるが、ラベンダー色を配した北海道時代の塗装を引き継ぐキハ183は、実はタイの観光列車、ことさら巡礼ツアーにはぴったりなのではないか。これがタイの人々に愛される要因の一つになっているかもしれない。

キハ183ツアーのバスとスタッフ
駅から貸切バスに乗り換える。我々は「KIHA」御一行様のようだ(筆者撮影)
キハ183ツアーのバス
バスのロゴもラベンダー色だった(筆者撮影)

参加者の目的は「キハ」に乗ること

次にバスで向かった先はチャチュンサオのシティーミュージアム。木造の旧市庁舎が博物館になっており、チャチュンサオの歴史や文化を学ぶことができる。ツアー参加者のために民族舞踊が披露され、特設のテントでは名産のマンゴーをはじめとした特産品が販売されていた。その一角では、このマンゴーを使ったデザートも無料で振る舞われ、売り込みに余念がない。単に観光施設を巡るだけでなく、地元の自治体や観光局と連携してキハツアーのパッケージは作られている。

ツアー参加者の中にタイ国鉄のジャケットを着た女性がいた。国鉄広報部のスタッフで、イベントを楽しむ参加者を撮影しており、これらの写真は後日Googleドライブにアップロードされ(リンクはタイ国鉄公式Facebookで告知される)、自由にダウンロードできると言う。日本では考えられないが、これもタイ流のおもてなしといったところだろう。

彼女に「チャチュンサオツアーはほかの行き先と比べてもすこし高くないか?」と素朴な疑問をぶつけてみると、「列車の乗車時間が短い分、現地でのアクティビティが多いから」だそうだ。昼食の後は、船で川をクルーズするという。ならば、納得の価格設定だろう。

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