「今日何を食べたいのか」腸が操っている驚く事実 腸内細菌が人の食べ物に対する欲求に影響与える
マウスの胃に直接エサを注入して摂食行動が味覚の影響を受けないようにした実験により、内臓が脳と連携して何を食べるかを決定するメカニズムの詳細が明らかになりました。
研究チームはキイロショウジョウバエの食習慣を研究することで、特定の種類の腸内細菌叢が宿主に足りない栄養素を検知し、どのくらいの量の栄養素を摂取すべきかを測定するということを発見しました。
チームは、まずグループ1のハエに必須アミノ酸をすべて含んだショ糖の溶液を与え、グループ2のハエにはいくつかの必須アミノ酸を取り除いた餌を与えました。必須アミノ酸はタンパク質の合成に必要な物質なのですが、体内で作り出すことができないので、体外から取り入れるしかないものです。
そして3つ目のグループのハエには、どの必須アミノ酸が腸内細菌によって検知されているのかを明らかにすべく、1つずつ必須アミノ酸を取り除いた餌を与えました。
それぞれの餌を与えられたハエは、72時間後、プロテインを豊富に含んだイーストと通常のショ糖溶液が餌として与えられました。すると、必須アミノ酸を欠いた食事を行った2つのグループのハエは、足りない栄養素を補うべくイーストを強く求めるようになっていました。
しかし、その後、研究者らがラクトバチルス・プランタルム、ラブレ菌、アセトバクター・ポモラム、コメンサリバクター・インテスティニ、エンテロコッカス・フェカリスという5種類の腸内細菌をそれらのハエの消化器官内で増加させると、必須アミノ酸を制限した餌を行っても、ハエはイーストを求めないようになったそうです。
この時、特定のバクテリアを取り除いたハエの必須アミノ酸レベルは低いままで、ハエやバクテリアが自分で足りない必須アミノ酸を作り出したということはありません。にも関わらず、「必須アミノ酸がなくても問題ない」と消化器官の細菌が宿主の脳に伝えているかのような働きが生まれていたわけです。
5種類の細菌のうち影響力が大きいのはラブレ菌とアセトバクターで、この2つの細菌の量を増やされたハエはタンパク質への渇望が抑えられ、糖をより強く求めたそうです。通常であればアミノ酸の欠乏は細胞の成長や再生が阻害され、ゆえに生殖能力も落ちるのですが、この細菌を増やされたハエは、機能を回復させたとのことです。
腸内の細菌が宿主の脳に情報を送っている
続いて、研究チームは、アミノ酸の一種であるものの必須アミノ酸ではないチロシンを生成するのに必要な酵素をハエの体内から取り除きました。これによって、ハエは必須アミノ酸のようにチロシンを食べ物から取り入れる必要があるのですが、体内のラブレ菌とアセトバクターを増やしても、ハエが食べ物からチロシンを求めることを抑制することはできませんでした。つまり、ハエの腸内細菌叢は必須アミノ酸の摂取だけを検出できるようになっていたわけです。
今回の研究によって、宿主である生物と体内の細菌の間に独特の進化があることが示されるとともに、腸内の細菌が宿主の脳に情報を送っていることを強く示す事象が確認されたことになります。細菌は「宿主が何を食べているか」によって食事を左右し、また宿主が社会的であったほうが繁殖範囲を広げていけるので、「必須アミノ酸しか検知しない」といったシステムには、細菌が進化するにあたっての理由が何かあるのかもしれません。
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