過酷労働でミス頻発…「オペ室ナース」衝撃の実態 「看護の日」に考える、看護師のまっとうな働き方

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2025年は団塊世代の全てが75歳以上になることから、前々から国は審議会を通して看護職(保健師、助産師、看護師、准看護師)200万人体制が必要だとしてきた。しかし現在、就業している看護職は約166万人しかいない(厚生労働省「衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」2020年の実績)。受け入れ態勢が十分であるとは言えない状況だ。

日本看護協会の「病院看護実態調査」では2021年度の新卒看護師の離職率は10.3%で、2005年度以降の調査で初の10%超えとなった。正規雇用の看護師全体の離職率も11.6%で低いとは言えず、看護師の働き方の問題は見過ごせない。

看護職の8割が「辞めたい」と思いながら働いている

日本医療労働会館の外観(写真:筆者撮影)

こうしたなか、5月12日の看護の日を前にした11日、医療で唯一の産別労組「日本医療労働組合連合会」は、「看護職員の労働実態調査」(2022年)の結果を記者発表した。今回の調査は初の合同調査で、他に全国大学高専教職員組合と日本自治体労働組合総連合が加わった大規模調査となる。

同調査は1988年以降、約5年に一度、実施されてきた。今回調査は2022年10~12月に行われ、約3万6000人の回答を得た。看護職の5割前後が「全身がだるい」「腰痛」「目がつかれる」などの自覚症状を持ち、「頭痛」「いつも眠い」が4割強、「ゆううつな気分がする」「なんとなくイライラする」が3割を超えていた(複数回答)。

「この3年間にミスやニアミスを起こしたことが『ある』」という回答が9割弱もあった。年齢別では若年層が高かった。1日当たり約60分以上の時間外労働があるケースについては、どの勤務帯でも40~50代が他の年代よりも多い傾向があり、ベテランの負荷が高いことが分かった。前述したオペ室の状況のような実態が、同調査からも浮き彫りになった。

また、看護職の7割が健康不安、8割が慢性疲労を訴え、6割強が「強い不満、悩み、ストレス」を抱えている。そして、8割もの看護職が「仕事を辞めたい」と思いながら働いていることがわかった。この傾向は調査開始以来、大きく変わってはいない。

5月11日に行われた「看護職員の労働実態調査」に関する記者会見の様子。中央のマイクを持つのが日本医労連の佐々木悦子・中央執行委員長(写真:筆者撮影)

日本医労連の佐々木悦子・中央執行委員長は会見で「看護師が疲弊しては、患者への不利益が大きい。夜勤や当直、待機などの負担も大きく、守るべき夜勤回数など法規制していかなければなりせん。看護師の配置基準などの制度が現場の実態とかけ離れているため負担が減らない。現在、約166万人の看護職が働いていますが、負担を減らすためには本来は300万人体制が必要なのです」と話した。

看護に関わる労組や団体は、10年以上前から夜勤の安全性のリスクについて「夜勤帯の作業成績は酒気帯び運転の時と同じか、それより悪い水準」という海外の研究結果などを引用しながら警鐘を鳴らして看護師の人員体制を増やすなど待遇改善を求めてきたが、医療費削減の国の方針の下で、一向に改善しない。

岸田文雄政権では医療従事者の処遇を改善するため、人件費を含めた病院決算などの「見える化」をすべく議論を進めているが、患者の命を預かる現場の医療従事者を守ることは、待ったなしだ。

どんなに良い看護師でも自身が過労状態で健康でないのでは、患者の命を守り切ることなどできないだろう。病気や事故はいつ訪れるかわからない。救命の役割を担うオペ室も含め、看護師が置かれている状況について「看護の日」をきっかけに目を向けてみてはどうだろうか。

小林 美希 ジャーナリスト

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こばやし・みき / Miki Kobayashi

1975年、茨城県生まれ。株式新聞社、週刊『エコノミスト』編集部の記者を経て2007年からフリーランスへ。就職氷河期世代の雇用問題、女性の妊娠・出産・育児と就業継続の問題などがライフワーク。保育や医療現場の働き方にも詳しい。2013年に「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。『ルポ看護の質』(岩波新書、2016年)『ルポ保育格差』(岩波新書、2018年)、『ルポ中年フリーター』(NHK出版新書、2018年)、『年収443万円』(講談社)など著書多数。
 

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