「誠意を見せた岸田首相」首脳会談・韓国の反応 半導体など経済や文化面での交流拡大も期待

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この関係者は、原爆による韓国人犠牲者慰霊碑の共同参拝を岸田首相が提案したことについて、「今後も、言葉と行動で歴史問題に対する真摯な姿勢を続けると言いたいのではないか」と述べた。

元徴用工や歴史問題以外でも、今後は両国間の人的交流の拡大や若い世代の交流拡大、半導体サプライチェーンの構築、先端科学技術分野の共同研究などの協力をどう進めていくかが協議される模様だ。このような中、日本側がさらに元徴用工や歴史問題に関心と誠意を見せるべきだとの指摘が韓国国内で上がっている。

尹大統領は首脳会談で、「シャトル外交の復活に12年の時間がかかったが、われわれ2人の相互往来には2カ月しかかからなかった」と指摘し、岸田首相もまた「とてもうれしく思う」と応えた。

日韓が国交を正常化した1965年以降、日韓の首脳会談は76回行われている。このうち、シャトル外交が活発に行われていたのは金大中(キム・デジュン)政権時代(在任期間1998~2003年)。1998年に発表された日韓共同宣言をきっかけに、政府、経済、文化交流が本格化した。金大中大統領の後を継いだ盧武鉉(ノ・ムヒョン、同2003~2008年)政権では、当時の小泉純一郎首相が訪韓するなどシャトル外交は続いた。

シャトル外交を続け両国のシナジー効果を

しかし2012年に日本政府が竹島(韓国名・独島)の領有権を主張し続けたことに反発して、当時の李明博(イ・ミョンバク、同2008~2013年)大統領が国家元首として初めて竹島を訪問して両国関係が急速に冷え込んだ。文在寅(ムン・ジェイン、同2017~2022年)政権でも、2019年に大法院(最高裁判所)が元徴用工へ日本企業が賠償金を支払えとの判決を出したことを契機に、両国関係はさらに冷え込んだ。

韓国外国語大学の康埈榮(カン・ジュンヨン)教授は「グローバルな中枢国家を標榜する尹大統領としては、隣国である日本も同じような価値を持っていると考えている。そのため、日本とともに国際社会で歩もうという選択を行ったのだろう。日韓が東北アジアで行動をともにすることは、新冷戦状態の世界や東北アジアの戦略的な安全保障環境を考えると孤立した位置にある韓国が有利なるための行動だ」と指摘する。

康教授はシャトル外交の復活について、「安保分野からすれば日米韓の協調が基盤にあるが、日韓が人的・文化交流、先端産業など安保以外の分野で地理的な立場を考慮しながらシナジー効果を出すことができる」と期待する。

今回、シャトル外交の復活によって、半導体やバッテリーなどの産業の供給網(サプライチェーン)構築に共同で対処していきそうだ。

韓国・梨花女子大学の朴元坤(パク・ウォンゴン)教授は「安保と歴史問題、元徴用工、福島第一原発の処理水放出など4つの問題において、今後もさらなる議論が必要とされる。そのため、今回の首脳会談は両国が今後解決していくべき議題の方向性をつかむという点で意味がある」と評価する。

一方で、「たった1回のシャトル外交ですべてが解決されるという期待は現実的ではない」と言う。前出の康教授も「当面、両国関係のネックとなっていた福島第一原発の処理水問題では、日本政府が韓国との関係を反映して、ある程度韓国側の意向を受け入れるだろう」と言う。

歴史問題を超えて未来へ進んでいくためには、日本側が韓国国民の目線に合わせた「誠意のある行動」を続けるべきだという指摘だ。韓国・峨山(アサン)政策研究院の崔恩美(チェ・ウンミ)研究委員は、「とくに元徴用工問題で賠償を命じられた日本企業が、犠牲者に何の措置も行わないことは問題だ。両国政府が調整して基金創設などに積極的に動くべきだ」と指摘する。

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