日本は「G7の結束」を強化することができるのか 40年前の中曽根外交というモデルに学ぶこと

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そのような不協和音が広がる中で、4月16日から18日までの3日間、日本の軽井沢でG7外相会合が開催されることになった。そこでは、ウクライナ情勢について時間をかけて意見交換を行うと同時に、対中国およびインド太平洋地域に関するセッションに多くの時間を割くことになった。

対中認識や、台湾危機の可能性についての危機意識など、G7諸国の間での認識の乖離が広がらないように、議長国である日本はそれらの問題に多くの時間を割くように配慮した。さらには、インド太平洋の議題については、今後、G7の枠組みの中で定例協議を行うことが合意された。

英語が流暢で、日本の政界の中でも例外的に国際派であり社交的である林芳正外相は、軽井沢のG7外相会合のさなかに誕生日を迎えたアメリカのブリンケン国務長官と、フランスのコロナ外相の2人に、ビートルズのジョン・レノンが好んだというアップル・パイをプレゼントした。

和やかな雰囲気の中で行われた軽井沢G7外相会合は、日本外交の努力によって、台湾問題をめぐる米仏間の認識の乖離を埋めるうえで大きな貢献をなした。まさに、40年前に中曽根首相が行った米仏間の対ソ政策をめぐる亀裂を回避する外交を、現在、林外相、さらには岸田首相が行っていると見ることもできる。

岸田首相は中国の軍事行動の可能性に警鐘

岸田首相はG7諸国が結束して中国やロシアに向かうこと、さらにはヨーロッパの問題とアジアの問題を一体性のあるものとして考えることの重要性を、しばしば指摘している。

たとえば、今年の1月13日のワシントンDCで行った演説の中で、岸田首相は次のように論じる。「日本はG7で唯一のアジアの国です。その日本が対露措置に加わったことで、ロシアによるウクライナ侵略との戦いは、大西洋世界のものからグローバルな性格のものに変わりました」。

岸田首相はそこで、「この力による一方的な現状変更を許せば、アジアをはじめ世界のほかの場所でもこのようなことが行われてしまう」と言及し、台湾や尖閣諸島をめぐる中国の軍事行動の可能性に警鐘を鳴らしたのであろう。

このように、1983年に中曽根総理が試みた米欧間、およびヨーロッパとアジアの間の亀裂の拡大を回避するという試みは、40年間の時代を経て岸田首相に継承されている。

ウィリアムズバーグ・サミットで中曽根首相は、世界における日本のプレゼンスを誇示することに成功した。

これから岸田首相もまたG7広島サミットを契機として、同様に、国際社会の結束を強化して、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を回復するための努力が求められるのだ。

(細谷雄一/API研究主幹、慶應義塾大学法学部教授)

 

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