現役の消費者「高齢者」に気づかない日本のズレ感 五木寛之×和田秀樹(対談・後編)
五木:経済的なことでは、もう10年前から言い続けていることがあるんです。重工業でタンカーを造ったりするのもけっこうだけど、微小なものにシフトしていってもいいんじゃないかと思います。たとえば、補聴器のポルシェと言われるものを創り出すとか、視力を矯正する最高の老眼鏡を創るとか。ありとあらゆる小さなもので、世界の人たちが憧れるようなものをね。そういう素地はあると思うんです。
補聴器一つにしても、苦痛のない、優秀な補聴器を作れば、これからの高齢社会にとって大きな力になるし、世界の人たちも憧れて日本にやってくるはずだ。小さな物で高価な製品を創り出す。そういう産業構造にシフトしていく必要があると思ってます。
高齢者は「現役」の消費者
和田:大賛成ですね。いま、働けるかどうかで現役かどうかを決めてますよね。だけど僕は、高齢者が現役の消費者でいてくれることが非常に大事だと思っています。高齢者は生産しないから戦力にならない人のように思われがちですが、今の日本ははっきり言えば消費が足りない。豊作貧乏と同じことが起こっているんですね。
そこで生産性を上げても、余計に豊作貧乏になるわけですよ。生産しないで消費だけしてくれる高齢者は、ありがたい存在なのに、そう思ってないところが、日本がいつまで経っても景気良くならず、給料も上がらない理由じゃないかと。
ところがほとんどの企業経営者たちは、若い人ばっかり見てるんですよね。私の『80歳の壁』は、おかげさまで昨年いちばん売れた本になりました。そのせいもあって、出版社の人たちは声をかけてくれるんですけど、メーカーやサービス業の人が「高齢者向けに何かやりたいから、和田さんの話を聞かせて」と来たところは一つもないわけです。
五木:それは本当に不思議ですね。
和田:その意味では、お年寄りがまだ消費者と見なされていないんです。だけど、人口の29%いて、その8割は元気高齢者で、且つ、個人金融資産の6割とか7割を持っているんですよ。なのに、なぜ目を付けないのかが私には理解不能です。
五木:和田さんは映画監督もなさっているから、よくおわかりだろうと思うけれど、50代、60代以上の人たちが熱狂するような映画だって作ればいいじゃないですか。若者だけを相手にする映画じゃなくてね。