現在、陸自は約340両の90式戦車を保有している。現防衛大綱では戦車の定数は300両であり、十分な数の90式が存在する。10式の調達を続けるということは、まだ十分に使える90式戦車を廃棄するということになる。そのような「ぜいたく」をしている「軍隊」は米軍を含めてもほかにない。
必要性が極めて薄い10式戦車の調達は本来必要な陸自の予算をむさぼることになり、情報化・ネットワーク化などの近代化が全般的に遅れる。もっと深刻なのは、兵站が極端に貧弱という陸自長年の弱点を更に悪化させることだ。
その一例が、貧弱な衛生キットという形で表れている。先の「自衛官の『命の値段』は、米軍用犬以下なのか」は筆者の予想以上の反響を呼んだ。多くの読者に、地味だが重要な事実に興味を持っていただいたのは望外の喜びだった。
10式戦車のような不要な装備の調達よりも、衛生など本来の戦力の基盤となるべきものに予算を使うべきだ。そのような地味で重要な基盤を軽視していくら新型戦車を調達しても、陸自の戦力強化にはならない。これらは樹木ならば根に当たる。このようにインフラの整備を極端に軽視して一部の新型兵器を調達するのは、根っこのない植物に無理やり花を咲かせるようなものである。いわば、あだ花に過ぎない。
10式戦車は戦闘重量が44トン(90式は50トン)。最新式のC4IR(Command Control Communications Computers and Intelligence〈指揮・統制・通信・コンピュータ・情報〉)システム、車体に周囲を監視できる状況把握システム、より強力な国産の主砲と砲弾を有し、エンジンを切ったままでも電子システムに電力を供給する補助動力装置を有している。
だが、これらは軽量化を除けば、既存の90式戦車の近代化で済んだ話だ。
軽量化の目的とは?
防衛省は、90式は車内が狭くてC4IRシステムが搭載できないことを、10式導入の理由のひとつに説明してきたが、これは事実ではない。10式戦車のC4IRシステムの開発は90式をテストベッドにして行なわれた。そして車内容積は軽量化を追求した10式の方が90式よりも狭い。このため将来の近代化への冗長性は低い。
旧ソ連のT-55やT-62といた旧式戦車にC4IRシステムが搭載される近代化パッケージを多くのメーカーが提案している。筆者は何度も試乗しているが、これらのソ連の戦車の車内容積は90式よりもはるかに狭い。それらの近代化が可能であり、90式では不可能だというのは子どもだましだ。この子供だましに日本のメディアや国会議員は簡単にだまされる。
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