はたして防衛省は10式の採用後、90式のC4IR近代化を言い出した。10式を導入し、かつ戦車部隊をネットワーク化するためには既存戦車の近代化とそのための費用も必要だ。これもまた10式を導入するための間接的なコストとなる。だが、予算の不足でそれは実現しないかもしれない。であれば10式の調達が完了する約30年の間、陸自戦車隊のネットワーク化は実現しない。しかも30年のうちに現行の10式のネットワーク機能は完全に旧式化する。
陸自は過去、74式や90式戦車の近代化をほとんど行っておらず、10式の近代化も同様に放置されるだろう。90式にネットワーク機能を付加し、センサー類を更新するなど最低限の近代化を行うならば、3億円もあれば十分だろう。年に平均15両の10式を調達するとして150億円。その予算があれば50両の90式の近代化が可能となる。それならば、7年も掛からずに陸自の全戦車のネットワーク化が完成する計算になる。
そもそも近隣諸国は揚陸能力を有していない
90式で唯一不可能なのは、戦闘重量を44トンに抑えることだけだ。全国の主要国道の橋梁1万7920カ所の橋梁通過率は10式戦車が84%、50トンの90式が65%になる。62~65トンの海外主力戦車は約40%とされている。
だが、そもそも防衛大綱でも、我が国本土に対する敵の戦車師団が揚陸してくるような事態は、ほぼ起こりえないとしている。事実、中国、ロシア、北朝鮮などはそのような揚陸能力を有していないし、日本とそのような戦争をする理由もない。そのような戦争をすれば、前世紀のロシアのように経済は崩壊、少数民族の蜂起などが発生し、体制が崩壊するだろう。
脅威とは意思×能力で表されるが、日本における戦車戦については、意思も能力もゼロに近い。そもそも最盛期のソ連軍ですら北海道に揚陸作戦を行う能力はなかったし、そのための作戦も存在しなかった。これは筆者が顧問を務める「Kanwa Information Center」の発行人で、ロシア軍と軍事産業界に太いパイプを持つ、アンドレイ・チャン氏が複数のロシア将官に確認している。
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