トヨタ、佐藤新社長就任で「広報戦略」激変の訳 テレビ重視の姿勢と、その背景にある「狙い」

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『トヨタイムズ』の動画で、佐藤新社長は「佐藤社長」でも「佐藤さん」でもなく、「恒治さん」と呼ばれている。細かい点ではあるが、呼称からも「人間的な親しみやすさ」を訴求しようという「広報の意思」を読み取ることができる。

このように就任発表から3カ月足らずで、新社長の「クルマ大好きエンジニア」の側面を伝える情報は枚挙にいとまがないのだ。

今の日本に相応しい、新たな「カリスマ経営者像」

さて、新社長就任と併せて広報でも変化を見せたトヨタだが、これから「ニッポンのものづくり企業の新たなカリスマ経営者像」をつくるのではないかと、私は期待している。

かつて日本にも世界的な大企業を作り上げた、ものづくり企業の社長ストーリーがあった。ソニーの井深大氏や盛田昭夫氏、パナソニックの松下幸之助氏、本田技研工業の本田宗一郎氏などだ。

「戦後の荒廃から立ち上がり、一代で世界的大企業を打ち立てた」という時代性とストーリー性、さらに経営者個人の「カリスマ性」から、長く「伝説」として語り継がれてきた。

だが、こうした「伝説的なカリスマ経営者」が現代の日本で新たに誕生するとは考えにくい。そもそも彼らが背負ってた劇的な時代背景が存在しないからだ。

佐藤新社長の姿は私たち一般的なビジネスパーソンにとって、こうした「強烈な個性のカリスマ経営者」より、はるかに「等身大」に近い。だからこそ、佐藤新社長のあり様は、今の日本に相応しい、新たな「カリスマ経営者像の誕生」になりうるのではないか。

日本を代表するものづくり企業の「強烈な個性を持つ起業家の劇的な成功譚」は、日本全体が高度成長に沸く高揚感に包まれていたからこそ、皆が共有できる「伝説」となった。

だが、「静かに沈みつつある衰退期」を抜け出せずにいる閉塞感がこの国全体を覆い、経済格差も広がるなか、こうした「伝説」はもはや国全体で共有されにくい。「成功者のストーリー」は一瞬にして、SNSやニュースのコメント欄で地に叩き落とされるのが現代なのだ。

多くのビジネスパーソンが共感できる「等身大の経営者」。そして「ものづくり日本」の復活を託したくなる「クルマ大好きなエンジニア」。今の日本で皆が共感できる個性を打ち出す佐藤新社長の姿は、現代の日本での、新たな「カリスマ経営者像」に最も近い存在かもしれない。

下矢 一良 PR戦略コンサルタント

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しもや いちろう / Ichirou Shimoya

早稲田大学理工学部卒業。テレビ東京に入社し、『ワールドビジネスサテライト』『ガイアの夜明け』を経済部キャップとして制作。スティーブ・ジョブズ氏、ビル・ゲイツ氏、孫正義氏、三木谷浩史氏、髙田明氏、藤田晋氏、前澤友作氏らにインタビュー。その後、ソフトバンクに転職し、孫正義社長直轄の動画配信事業(Yahoo!動画、現・GYAO)を担当。「ソフトバンク・アワード」を受賞。現在はPR戦略コンサルタントとして中小企業のブランディングや宣伝のサポート等を行う。

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