トヨタ、佐藤新社長就任で「広報戦略」激変の訳 テレビ重視の姿勢と、その背景にある「狙い」
さて、新社長就任を期にトヨタの社長広報はなぜ、このような「変化」を遂げたのであろうか。
新体制の現実的な広報姿勢
ひとつ目の変化の「『トヨタイムズ』一辺倒から、マスコミ取材にも応える」からは、「目的に資するものであれば、使えるものは使う」という新体制の現実的な広報姿勢が垣間見える。広報効果を最大化するために、これからは『トヨタイムズ』とマスコミを併用するのであろう。
ふたつ目の変化である「日経偏重には戻らない」姿勢からは、「報道の主体性は日経をはじめとしたマスコミではなく、自社で握る」という、豊田章男社長時代からの確固たる意思の継続を感じる。
そして最後の「テレビ重視」だが、確かに新聞は部数減少に歯止めがかからず、読者の高齢化が進んでいることも一因だろう。「テレビ離れ」が言われているが、新聞に比べれば、落ち込みはまだ少ないからだ。
だが、「テレビ重視」となった理由はそれだけではない。トヨタが社長広報で「目指しているもの」が大きく関わっていると、私は推察しているからだ。
他の大企業の社長のように「人間味を感じさせない、エリート官僚」でも「淡々と事業計画を会見で読み上げるだけの朗読マシン」でもなく、トヨタの新社長は「クルマが大好きなエンジニア」。
こうした社長の「人間性の訴求」を通じて、本来は最も「親しみやすさ」とは程遠い「日本最大の企業・トヨタ」に「共感」を抱いてもらう。それがトヨタが社長広報で課している目標のように思えるのだ。
「人間味」のような感情的な訴求には活字より映像のほうが、はるかに適している。「人柄訴求」という目的のためには、今回の「テレビ重視」は必然だ。
実際、「クルマ大好きエンジニアであることの訴求」が社長広報の目標であることを裏付けるような情報発信は、トヨタからすでに十分すぎるほど行われている。
1月26日の『トヨタイムズ』での新社長就任発表では、佐藤新社長が運転を楽しんでいる様子が紹介映像として流された。この会見で明かされた新社長就任の打診を受けた場所は「社長室」でも「料亭」でもなく「サーキット」だったという。
佐藤新社長が往年の名車・初代ハチロクを自腹で購入し、レストア(修復)中というエピソード。あるいは入社式の会場で佐藤新社長をはじめとする役員たちの「愛車」が展示されたことを『トヨタイムズ』や複数のマスコミが報じている。
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