そして「トワイライト」は伝説になった 誰も知らない豪華寝台列車「ラストラン」秘話
食堂車、ダイナープレヤデスのサービスはJR西日本の関連会社であるジェイアール西日本フードサービスネットが担当している。
最終列車の料理長を務めることになった三浦伸敏チーフは入社9年目。豪華客船のコックに憧れ、ホテルやレストランで経験を積んだ後にトワイライトの門を叩いたフランス料理の専門家だ。
その三浦氏に、大阪にいる伊福部雅司担当部長から電話が入った。
「君にすべて任せる。現地で食材を調達し、できる限りグレードを下げずにディナーのメニューを再現するように」
伊福部部長は、トワイライトエクスプレスの総料理長にあたる人物である。
「その部長から、”任せた”という言葉をいただき、料理人として燃えるものがありました」(三浦氏)
札幌駅周辺の高級食材店を駆けずり回った男たち
11日午後、三浦氏は乗客サービス担当の室巻智大マネージャーと二人で駅近くの喫茶店に入り、対応を検討した。ひとたび列車が発車したら、補充は一切できない。ディナーを再現するために必要な食材を書き出し、厨房スタッフと共に札幌市内の高級食材を扱う店を駆けずり回った。
「お店では怪訝な顔をされました。男4人が、最高級の和牛肉をブロックでどかどか買っていくのですから(笑)。トワイライトエクスプレスの名前は出しませんでした」(三浦氏)
最終列車のディナー予約は51人。車内にある食材ではその半分程度の量しかまかなえない。
残りを現地で調達するのだが、全く同じものを数時間で揃えることは不可能だった。
本来のメインディッシュは、「トワイライト厳選の黒毛和牛のグリエと牛舌の煮込み、里芋のムースリーヌ」。和牛は本来フィレ肉を使うことになっていたが、納得できる品質の肉は鹿児島産のロースしかなかった。
そこで、手持ちのフィレと新たに購入するロースを合わせて提供することにした。
容易に手に入ると思われたイクラも、醤油漬けが多く生のものがなかなか見つからない。何軒もまわって、ようやく味の付いていない筋子を見つけた。
どうしても調達できない食材もあった。デザートはパルフェ・グラッセ(生クリームを使った氷菓)が中心だったが、どうしても手に入らない。これは、アイスクリームで代用することにした。
午後を丸々使って食材を揃え、ホテルに戻ると間もなく12日運行決定の情報が届いた。いよいよ、自分たちがラストランのクルーとなる。普段とは違う、静かな熱気が10人を包んだ。
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