歌舞伎町「ホストの食卓」を支えるシェフの生き様 売れるホスト、売れないホストの違いも見えてくる

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34歳のころ、付き合っていた女性と授かり婚をし、それを機にフレンチレストランを退職。当時、朝8時に家を出て、帰りは遅いと24時。休みも週1日しかなかった。看護師をしながら子育てをしていた妻の負担を減らすため、時間の融通が利くレストランに転職したのだった。友人からホストクラブで働かないかと誘われたのは、40歳のころだった。

(撮影:梅谷秀司)

「料理人の友人がホストクラブのキッチンで働いていて、忙しいから来てくれないかと。その店は毎月1日と日祝が休みで、休みも多いんですね。条件も悪くなかったのですが、最初は断っていました。やっぱりイメージが良くないので(笑)」

かつて歌舞伎町でもアルバイト経験があった安田さん。街には酔っ払いが多く、ただでさえいい印象がなかったのに、ホストクラブと聞くとなおさらだった。ただ、40歳にもなると、転職が難しい現実もあった。実際、3~4カ所のレストランで面接を受けたが、どこも断られた。シェフが自分より若いことも増え、「年上の人は使いづらい」という声も耳にし、焦りを感じていたのも事実だった。

お酒を提供する場ならではの戸惑いも

そんなときに、ホストクラブへの誘いである。迷いはあったが、妻に相談すると「やってみたら?」と後押しされ、働くことを決めた。その店ではまかないがなく、安田さんの仕事はフードメニューの調理。環境は違ってもすることは同じだが、お酒を提供する場ならではの戸惑いもあったという。

「お客さんから板わさの注文があって、出したのですが、わさび醤油を忘れてしまったんです。そうしたら、その席についていたホストが厨房に飛んできて、『何でわさび醤油がないんだ、一緒に出さないのはおかしいだろ!』とゴミ箱を蹴とばしたんですね。多分、お酒が入って気が短くなっていたのかなと」

自分が悪いのできちんと謝ったが、蹴とばしたゴミ箱は元の位置に戻してもらった。実は安田さんの父親は、あまり酒癖が良くないタイプ。度が過ぎると注意してきたこともあり、ホスト相手でも毅然と対応することを忘れなかった。

それでも働くうちに、自然となじむようになった。ホストたちは派手な見た目で、年齢も離れているが、話してみればごく普通の青年たち。気軽に雑談を交わすようになった。プライベートでホストたちと居酒屋に行くこともしばしばだったという。どんな会話をしていたのかというと、

「釣りに行ったとか、趣味の話が多いですね。お店や仕事の話はしないようにしています、どうしてもグチになってしまうことが多いので。彼らも相談ごとがあれば、僕じゃなくて先輩のホストにしていたと思います。だから、飲みに行くとみんな好きなことばっかり話して、楽しい時間でした」

次ページいつしか、ホストクラブへのネガティブなイメージは消え…
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