ベルリン・フィルの女性首席指揮者を襲った悪夢 映画「TAR/ター」主演女優の徹底した役作り
この役を演じるにあたり、ブランシェットは並々ならぬ意欲をもって取り組んでいたとフィールド監督は証言する。「昼間に別の作品の撮影があっても、夜になると僕に電話をしてきて。そこからさらに準備に費やすんだ。ドイツ語とピアノも習得して。演奏シーンはすべてケイト自身が演じている。リサーチに至るまで本当に抜かりがないし、彼女はまさに独学の達人だね」と。
本物のクラシックの世界を描きたいというフィールド監督は、『指揮者は何を考えているか』(白水社刊)の著書があり、レナード・バーンスタインとも親交のあった指揮者のジョン・マウチェリに本作の脚本監修を依頼。マウチェリは非常に協力的だったとのことで、本作の物語に深みを与えることに寄与した。
またベルリン・フィルハーモニーホールの特徴である、ステージのまわりを客席が囲む「ヴィンヤード型」のホールを拠点に持つドイツのオーケストラということで、ドイツのドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団に協力を依頼。彼らの本拠地となるクルトゥーア・パラストの一部で撮影が行われた。
「人生を変えるほどの大きな名誉」
演奏シーンも実際にブランシェット自身がリディア・ターとして、ドレスデン・オーケストラを指揮している音源が使用されている。この体験を「人生を変えるほどの大きな名誉」と語ったブランシェットだが、この演奏を収録したサウンドトラックがCDとして発売。
同サントラのジャケット写真は、指揮者クラウディオ・アバドの「マーラー:交響曲第5番」のジャケット写真を想起させるものになっているという。
英ガーディアン紙のインタビューで「この作品はわたしの軸を素晴らしい形で狂わせてくれた」と語っていたブランシェットは、フィールド監督との共同作業で、普段は舞台でしか味わえないような自由をこの映画でも体験したという。
「そのプロセスは、最終的にどこに行き着くのかがまったくわからなくてスリリングだった。よりダイナミックで、セーフティーネットがないような感じ。映画では、このような方法で仕事をすることはあまりないんです」と語るブランシェットだが、本作に通底する圧倒的な不協和音と狂気が入り交じった空間は唯一無二のもの。それが彼女の鬼気迫る芝居と相まって重厚なひとときを提供してくれる。
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