ベルリン・フィルの女性首席指揮者を襲った悪夢 映画「TAR/ター」主演女優の徹底した役作り
だがそんな彼女も近ごろは、新曲の生みの苦しみにさいなまれるようになる。交響曲5番のライブ録音も間近に迫っていたが、そのリハーサルもうまくいかず、いらだちは募るばかり。そんなある日、彼女が目を背けたくなるような“とある一報”が彼女のもとに届くと、彼女の完璧な世界は少しずつ崩壊しはじめる――。
本作の監督・脚本・製作を務めたのは、映画監督デビュー作となった2001年の『イン・ザ・ベッドルーム』、続く2006年の『リトル・チルドレン』、そして本作とこれまで手がけた作品すべてがアカデミー賞にノミネートされたトッド・フィールド監督。
本作は彼にとっておよそ16年ぶりの新作となるが、この挑発的な題材を非常にクールなまなざしで見つめ、かつ非常に的確な音響設計や撮影、演出スタイルなどを組み合わせながら、非常に濃密な映画的体験を提供している。
本作の脚本はコロナ禍初期、世界中が閉塞(へいそく)感に包まれていた時期に執筆されたという。脚本を担当したフィールド監督は「唯一無二のアーティスト、ケイトのために書いた。もし彼女が断ったら、この映画は日の目を見ることはなかった。あらゆる意味でこれはケイトの映画だ」と断言する。
すべての演奏シーンを自ら行う
ブランシェットは、フィールド監督から受け取った脚本を読み「吸い込まれるような思いがした」と振り返る。そして自分のセリフのみならず、ほかの人物のセリフや、脚本を執筆する際の参考資料などすべてを暗記し、ターという役柄を何とかつかみ取ろうとしていたという。
そのうえでレッスン動画や、歴代の名指揮者たちの映像資料を浴びるように鑑賞するなど、入念なリサーチを行った。
また、オーストラリア出身のブランシェットは、ドイツ語とアメリカ英語、さらにはピアノと指揮をプロフェッショナルたちから本格的に学び、すべての演奏シーンを自分で行った。ブランシェットはヴァニティ・フェア誌のインタビューに「まったく恐怖だった。でもやることが多すぎて緊張している暇はなかった」とそのときの心情を語っている。
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