家康「三方ヶ原の戦い」後の"変顔肖像画"のナゾ 本当に戦いの直後に描かれた肖像画なのか?

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さらには、本画像に描かれているのが、本当に家康なのかという問題もある。

残されている他の家康肖像画と本画像が、余りにも違い過ぎているからだ。家康の肖像画は、数多く描かれているが、顔はぽっちゃりしている。

一方、本画像は、痩せているし、一般的な家康の顔とは似ても似つかない。だから、この画像が、家康を描いたものではない可能性も十分考えられる。

まだまだ残されている謎は多い

ちなみに、本画像は、17世紀の初めに描かれたとも言われている。作者は不明である。仏像に多い半跏思惟の姿勢、憤怒の表情で「家康」を描いていることから、肖像画を礼拝するために、描いたものだとする見解も存在する。

この画像は三方ヶ原の戦い直後に描かれたものでないこと、同戦いに関連するものでもなさそうだが、まだまだ残されている謎は多い。

(主要参考文献一覧)
・原史彦「徳川家康 三方ヶ原戦役画像の謎」(『金鯱叢書』第43輯、
公益財団法人徳川黎明会、2016)
・柴裕之『徳川家康 境界の領主から天下人へ』(平凡社、2017)
・本多隆成『定本 徳川家康』(吉川弘文館、2010)
・本多隆成『徳川家康の決断 桶狭間から関ヶ原、大坂の陣まで10の選択』(中公新書、2022)
・平山優『新説 家康と三方原合戦 生涯唯一の大敗を読み解く』(NHK出版新書、2022)
・濱田浩一郎『家康クライシス 天下人の危機回避術』(ワニブックスPLUS新書、2022)
濱田 浩一郎 歴史学者、作家、評論家

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はまだ こういちろう / Koichiro Hamada

1983年大阪生まれ、兵庫県相生市出身。2006年皇學館大学文学部卒業、2011年皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は日本中世史。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『あの名将たちの狂気の謎』(KADOKAWA)、『北条義時』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)など著書多数

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