お年玉もお小遣いも使ってしまったのに、ドラクエのカードゲームが欲しかった君は、本に書かれているように、「お札って、作ってもいいの?」と私に聞いてきた。もちろん偽札を作るのは犯罪なので、「お巡りさんに逮捕されるよ」と注意したが、代わりに私はこう提案してみた。
「そこにある君の絵と工作を、1000円で買ってくれる人がいたら、それは君が1000円札を作ったのと同じことになるよ」と。
そのときの君の表情を、父である私は、忘れもしない。
君は、目を輝かせて「そんなことしても、いいの?」と聞き直した。
「もちろん、要らない人に無理に押し売りするのはダメだけど、声をかけて、興味を持ってくれる人がいたら、値段も自分で決めて、その値段で相手が納得して買ってくれるなら、何の問題もない!」と私が言うと、君はどうしようか迷っていた。
がっくりとうなだれていても…
ちょうど土曜日だったこともあり、「家の近くのショッピングモールに行って、買ってくれる人を探してみなよ! どうせ、暇だろう?」とけしかけると、君は自分の絵を抱えて家を出て、営業の旅に出て行ったんだ。
結局、売ることも、人に声をかけることもできずにベンチにガックリとうなだれて座っていた君の姿は、今も鮮明に覚えている(笑)。君にとっては苦い思い出かもしれないけど、私は君が絵と工作を抱えて家を出ていったあの瞬間、とても誇らしい気持ちだった。
やったことがないこと、これまで考えもしなかったアイデアを提案されて、「いっちょやってみるか!」と最初の一歩を踏み出してくれたことが、本当にうれしかったのだ。
安心していい。君は、一歩踏み出せる勇気を持っている。小さな身体でふりしぼった勇気の記憶を、これからも忘れないでほしい。
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