企業経営において買収とは、事前に計画した投資ではなく、既存のオペレーションや組織の延長線上にはない行動である。
企業は買収で獲得した新たな経営資源の結合から相乗効果を創出し、加速度的に成長することを目指す。
この結合こそが企業経営者にとって腕の見せ所となる。
20世紀を代表する経済学者であるシュンペーターは、企業家による非連続な新結合の遂行が経済発展をもたらすと説いた。この新結合の遂行をシュンペーターは後にイノベーションという言葉で表現するようになる。
シュンペーターは、新結合の要素として、①新しい財貨、すなわち製品やサービスの開発、②新しい生産方式、③新しい販路の開拓、④原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得、⑤新しい組織、すなわち独占的地位の形成、独占の打破の5つを挙げた。
経営における買収の役割は、シュンペーターが示したこの新結合の遂行ではないかと筆者は考えている。
企業は買収で、新たな販売市場を開拓し、供給連鎖の上流にある材料や部品の供給源、そして下流にある販売会社を傘下に収めて、新たな製品の開発や生産方式を試みる。
そして、新たな事業の結合で、業界構造を揺さぶり、その再編を導くことで自ら独占的地位、今日では寡占の形成を目指すからだ。
20世紀のGMと21世紀のグーグルに学ぶ
新結合で経済発展を導いた代表的な企業が、20世紀を自動車の世紀にしたGMと、21世紀初頭に勃興したグーグルである。
両社に共通するのは、まず、市場が成長期にあるときに買収を重ねて寡占を実現したことである。そして、寡占を維持しながら市場の成長を牽引した。
GMは自動車メーカーの水平結合と部品メーカーの垂直結合によって、おもに供給側で規模の経済を働かせた。1908年創業の同社は、1910年までに11の自動車メーカーを買収している。
GMの新車販売台数は、2008年にトヨタに追い抜かれるまで、77年間、世界第1位だった。
一方のグーグルは、グーグルマップのもとになったキーホールやユーチューブなどベンチャー企業の混合結合(自社の製品やサービスと隣接する事業を買収して品揃えを充実させ販売の拡大を目指す買収)と垂直結合を組み合わせることで、おもに需要側で規模の経済を働かせてきた。
2000年から2019年の20年間に、グーグルの持ち株会社であるアルファベットは、合計234件、すなわち1カ月に1件のペースで買収を実行している。
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