なぜアメリカ株の大幅下落を警戒すべきなのか 金融の混乱は収まっても不況はこれから深刻化

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その点、特に注目したいのは長短金利差と銀行貸し出しの関係だ。3月以降の金融市場を揺さぶった同国における複数の銀行破綻については、その直接的原因は個別行の特殊要因によるところが大きいと報じられている。だが、背景にFEDの大幅利上げとそれに伴う長短金利差の逆転(逆イールド)があるのは事実であろう。

ここで、改めて伝統的な銀行のビジネスモデルを確認しておきたい。それは簡単に言えば、短期金利で調達した預金を貸出などの長期金利で運用し「利ザヤ」を稼ぐことである。

それゆえ、一般的に金利上昇は銀行にとって好ましい事象であると理解されている。しかしながら、これは長短金利差が逆転した状態では当てはまらない。言わずもがな、貸し出し利ザヤの縮小により銀行の収益が圧迫され、安定的な収益確保が難しくなるためだ。

今後、失業率は上昇へ

そこでFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が2月6日に公表した2022年10~12月期の銀行融資担当者調査に目を向けると、やはり貸し出し態度の厳格化が顕著となっている。

この中の「銀行貸出態度」は大・中企業向けがプラス44.8、小企業向けがプラス43.8となり、それぞれ新型コロナ感染爆発初期の混乱期を除くと、リーマンショック以降で最も厳格な基準に到達した(数値上昇は銀行の貸し出し態度が厳格化していることを意味する)。

その背景には、銀行が来るべき景気後退に備えて貸し出しの審査基準を自らの判断で厳しくしている面もあるものの、FRBの急速な利上げに伴う長短金利差の縮小・逆転によって利ザヤの源泉が減っていることも大きいとみられる。

問題はそれがマクロ経済に与える影響だ。そこで銀行貸出態度と失業率(前年との差)の関係に目を向けると、そこには一定の連動性が確認できる。

これは貸出態度の厳格化が企業の資金繰り悪化を通じて倒産や失業発生に結び付いた結果と理解される。2月の同国の失業率は3.6%と歴史的低水準とも言うべき状況にあり、労働市場は「無傷」の状態にある。だが、過去に貸出態度の厳格化に数カ月遅れて失業率が上昇してきた経緯を踏まえると、現在の低失業率が維持できるかは怪しい。

やはり長短金利差が逆転した後、1~2年程度で景気後退が到来するという経験則は、単なる偶然ではなさそうだ。積極的な貸し出しが減少し、その結果として倒産や失業が増加するというのは過去の日本でもみられた現象であるから、警戒を強めたいところだ。

もちろん、今後、市場参加者の期待どおりにインフレ率が鈍化して「利下げ」の道筋が開けてくればいいのだが、仮にそうならなかった場合のS&P500種指数は、2022年10月につけた安値3577ポイントも再び視野に入るのではないか。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

藤代 宏一 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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ふじしろ こういち / Koichi Fujishiro

2005年第一生命保険入社。2010年内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間『経済財政白書』の執筆や、月例経済報告の作成を担当。その後、第一生命保険より転籍。2018年参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。2015年4月主任エコノミスト、2023年4月から現職。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当は金融市場全般。

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