「育ててもすぐ退職」一括採用の破綻が招く事態 卒業後すぐ就職できず若年層の失業率は上昇も

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たとえばアメリカでは、一握りの上級管理職以外は会社命令による異動はありません。ジョブ型雇用(以下「ジョブ型」)と言われるとおり、担当する職務と勤務地を明確に取り決めて採用します。部門間で人員の過不足が生じたら、人員過剰の部門ではリストラをし、人員不足の部門では採用します。

学生の入社時期はバラバラです。「新しい営業所を作るので営業担当を5人採用」という欠員採用が基本なので、日本企業のように今すぐに働けない大学3・4年生を“先物予約”で採用することはありません。学生は、大学の授業が厳しいこともあって、卒業してから就職活動やインターンを始めます。

ジョブ型で若年層の失業者が急増

ただ、こうした春の風物詩が、ジョブ型によって大きく変わるかもしれません。近年、日立製作所・富士通・KDDIといった企業が、ジョブ型に転換しています。まだ大手企業に限られた動きですが、政府もジョブ型を推奨しており、今後、雪崩を打って転換していく可能性があります。

もちろん、結果的にジョブ型への転換があまり進まなかったり、日本の雇用慣行とミックスさせた「日本式ジョブ型」が主流になる可能性もあり、将来は不透明です。ただ、仮にアメリカ式のジョブ型に転換したら、異動や新卒一括採用を続ける理由がなくなり、消滅します。

異動や新卒一括採用が消滅したら、企業経営だけでなく、家庭生活・学校教育など社会全体に様々な影響が及びます。中でも最も懸念されるのが、若年層の失業率の増加です。

日本では、若年層(15~24歳)の失業率は4.0%(総務省、2023年1月)で、世界平均14.9%(ILO、2022年)と比べて極めて低い水準です。これは、企業が新卒一括採用でまっさらな学生を採用し、OJTや異動で長期間かけて育成するというやり方をしているからです。

一方、ジョブ型は欠員採用が基本なので、即戦力の経験者を中途採用します。経験者が優遇されると、スキル・経験が乏しい若年層は、採用市場であぶれてしまいます。日本でもジョブ型になれば、欧米のように若年層の失業が劇的に増えることでしょう。

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