山口達也の「会社設立」に静かな覚悟が見えた理由 社会的意義のある事業だけに今後の姿勢が重要だ

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そうとう困難になるであろう、51歳の「再起」

そして最後に触れておきたいのは、山口氏の年齢だ。山口氏は現在、51歳。この51歳という年齢も、支持を集めた隠れた要素になっているはずだ。

前述の山口氏の「そっけない」ツイッターへの返信を見ていると、このような記述が私の目に入った。

山口くんと同世代です。本当に人生は色々とありますよね。過去を振り替えっても、変えられないですよね。だから、前に向かっていく姿に応援したくなりました。周りの心ない人は色々と言いますが、気にしないでいきましょうね。(原文ママ)

40代後半からほとんどのビジネスパーソンは「希望のない、そして果てしなく続く、難しい季節」を迎える。

出世の見込みが閉ざされ、後輩が上司になるのは当たり前。転職しようにも、望むような職場を得られるような「輝かしい実績」もない。政府が提唱する「リスキリング」も「言うのは簡単」だ。

しかし、実際に未経験の分野で「今から」若い人たちと戦っても勝算はあまりに薄い。起業しようにも、進学を控える家族を抱える身ではリスクも取りずらい。「人生100年時代」などと言われるが、40代半ばを迎えた社会人が「諦めてやり過ごす」には、先はあまりにも長いのだ。

私も山口氏と同世代に属するが、「かつての同級生」を見渡してみても、「大企業に入社したが、うつ病を患い退職、非正規労働で糊口をしのぐ者」や「子会社に転籍となり、給与が大幅に減った者」などがいる。当の私自身も「テレビ東京の経済部記者」という「華やかな立場」から、自分の人間的な未熟さが原因で、社内に「無用の敵」を作り続けた揚げ句、完全に干された過去を持っている。ある程度の年齢を重ね、「何の失敗も犯さず、順風満帆に生きてきた者」など、極めて少数なのだ。

前述のツイートの返信を見ると、山口氏の「始まったばかりの起業ストーリー」はすでに同世代のビジネスパーソンの一部からは、「共に歌える応援歌」と受け止められているのかもしれない。

いずれにせよ、山口氏にとって最も大事なのは「これから」だ。芸能界への「色気」を見せず、アルコール依存症という「社会課題」に純粋に向き合っていけるかどうか。現在の支持を繋ぎ止め、さらに批判の声まで支持へと変えていけるかは、その一点に集約されている。

下矢 一良 PR戦略コンサルタント

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しもや いちろう / Ichirou Shimoya

早稲田大学理工学部卒業。テレビ東京に入社し、『ワールドビジネスサテライト』『ガイアの夜明け』を経済部キャップとして制作。スティーブ・ジョブズ氏、ビル・ゲイツ氏、孫正義氏、三木谷浩史氏、髙田明氏、藤田晋氏、前澤友作氏らにインタビュー。その後、ソフトバンクに転職し、孫正義社長直轄の動画配信事業(Yahoo!動画、現・GYAO)を担当。「ソフトバンク・アワード」を受賞。現在はPR戦略コンサルタントとして中小企業のブランディングや宣伝のサポート等を行う。

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