政府に情報を上げなかった東電の初動に疑問--フランス高級紙ル・モンドは大震災をどう伝えたか、駐在記者に聞く
復興や経済再建への道のりはおそらく長いものになるでしょう。今、世界にも厳しい状況に直面する企業が数多く存在します。でも、それは日本でしか作ることのできない部品が手に入らないからです。日本の中小企業には独自のノウハウがあります。
たとえば、「iPad2」のディスプレイ用ガラスは日本製ですよね。製造に必要とされる高度なノウハウを持つのは、世界でも日本の企業しかない。現在は苦境に立たされていますが、日本には潜在力があります。「日本経済が崩落した」などとは思っていません。
ただ、漁業、農業などで栄えてきた地域の一部に関しては、放射能物質による汚染などの被害が心配です。
--震災や原発事故の発生直後に、在日フランス人の一部が東京や関東エリアから素早く退避しましたが。
フランス大使館は放射性物質による汚染の可能性やヨウ素剤使用の注意点などの情報を在日フランス人に対して的確に伝えたと思います。何も言わなければ手遅れになってしまうこともありえます。
「関東から離れなければリスクがある」といった趣旨の表現を用いていましたが、慎重であり、決して退避を強制したり、あるいは扇動したりするようなものではなかった。極めて理性的でした。
これに対する日本のフランス人社会の反応ですが、原発問題の拡大を恐れて素早く退避した人もいれば、まったく怖がらずに残っている人もいます。
ただ、「逃避」した人のなかには、仏企業の責任者クラスがいました。これが日本を見捨てたかのような印象を与え、多くの問題を引き起こした。(日本社会との)信頼関係を壊してしまいました。その関係を再構築するのは簡単でありません。
恐怖感を抱いているのは日本人も同様。だから、いち早く退避した人の行動は、やや軽率だったかもしれません。ただ、なかには家族のことを心配していた人もいます。フランスで生まれて日本に住んでおり、家族がフランスにいる場合、「原発の問題があるから戻ってこい」と電話をもらった人もいます。
--原発に関してフランス人は日本人よりも敏感なのでしょうか?
フランス人も日本人も敏感なのは同じです。日本人はあえて表に出さない面がありますが、実際に話しをしてみたら、非常に心配だと言っていました。フランス人はフランスへ戻ることができるが、日本人は戻る場所がないという単純な問題ではないのでしょうか。
ただ、1986年に起きた旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の「トラウマ」が今も残るフランス人がいるのは確かです。