「音大卒」は、ビジネス社会でも武器になる 「ピアニストは撃たないでください」

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高学歴プアなどという言葉があるように、気がつくと、受験戦争に勝っただけでは充実した人生を与えてくれない世の中になってしまっていた。やりたいことを手放さず生き抜いていくことが、自分の人生を紡ぐ方法なのかもしれない。まず、この本で著者が伝えたい3つのことを「はじめに」から抜粋したい。

1.音大で学ぶことは、社会で生きていく上でも十分な実力がつく
2.音大生の進路は、みなさんが考えている以上に幅広く、いろいろな可能性がある
3.充実した人生を送るためにこそ、自立した人生を歩もう

 

音大生の実力と言われても、イメージしにくい方もいらっしゃるかもしれない。それは、楽器の練習をこもってしている印象があるからだろう。しかし、実際には違うようだ。1人の練習も必要だが、大事なのは授業だ。大教室で聴講するスタイルの一般学部とは違い、音楽大学では、先生とのマンツーマンの授業が当たり前のように行われている。そこでは、おのずと目上の人とのコミュニケーション能力が養われるというのだ。確かにこの能力は、ほかではなかなか身につかない。そして、社会に出ると強力な武器になることは間違いない。

叱られる力、めげない力が身につく

さらに本書では、このマンツーマンの授業のメリットとして、いささか自虐的かもしれないが、「叱られる力」「めげない力」が身につくと書かれている。準備が不足していれば、30分叱られっぱなしいうこともよくあるそうだ。

モンスターペアレントに守られ、すぐにめげてしまう人材が多い印象がある昨今では、確かにこの能力は得がたいものなのかもしれない。またこれは私の個人的見解だが、逃げ場のないマンツーマン授業は「準備をする習慣」や「時間厳守の習慣」を培うに違いなく、これも社会で必要な実力といえる。

音大で獲得できる力は、まだまだある。少し乱暴だが私なりにそれを総括すると “好きなものに打ち込むために入学して、それに目一杯打ち込む”過程で得られる力である。それが、「音大卒」を語るときに最も大事なものなのではないだろうか。

さほど興味もない大箱の授業を受け身で受講して単位を取りつつ、サークルやアルバイトに精を出してきた学生とは、異なる輝きがそこにはあるに違いない。

ところで、卒業後の進路はどうなっているのだろう。個人演奏家、団体演奏家、音楽教員、音楽教室講師、一般企業……比率も含めて、こと細かに本書で紹介されている。

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