アンパンマン施設の「スルー対応」が悪手過ぎた訳 危機対応において「お答えしかねます」はご法度

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製品に虫の混入があったと主張する消費者が、SNSに写真つきで投稿しました。それに対して会社は調査し説明をしたのですが、「虫混入の可能性は低い」という一方的なもので、さらには投稿を削除するよう圧力をかけたと報道されてしまいました。

ここから一気に批判が燃え上がり、会社は袋叩き状態になりました。クレームを拒絶し、圧力と取られる態度で接した初動の対応は完全に間違いで、その結果も大失敗だったといえます。

ここまではただの失敗例なのですが、まるか食品はここから持ち直します。再度調査を徹底し、虫混入の可能性を認めただけでなく、市場に出回る膨大な量の自社製品をすべて回収し、さらに製造ラインも止めて検査やプロセスの見直しに入ったのです。初動失敗後、同社は行動過程を公表していきました。

操業・販売停止期間は半年におよび、新たに生産プロセスの見直しにかかった費用は10億円ともいわれます。年間売り上げ80億規模(未上場企業のため報道による数字)と見られる同社にとって、かなりの出費です。しかし危機に際して、存亡をかけた巨大投資を行ったのでした。歴史ある古い生産設備は、近代的クリーンルームに変わりました。

巨額の投資は覚悟しなくてはならない

問題のあった製品の回収や検品のやり直しは、通常でもありえますが、全製品の見直し、さらに市場在庫まで回収という例は、ほかに類を見ません。業界・市場関係者からはもちろん、ネットユーザー、消費者からも「そこまでしなくても」という声が上がりました。

しかも市場やユーザーからは、店頭から消えてしまったペヤングソース焼きそばを早く食べさせろという声すら起こったのでした。

結果として、半年後の操業再開時には、これまでの3倍以上の受注を受け、それでも生産が間に合わず、さらに製造ラインを増設して対応しました。2021年には売り上げが150億を超えたと報道されています。

こうしてまるか食品は大逆転の成功物語となりましたが、危機管理上の観点では、結果的に大成功した同社でも、初動に失敗したことで10億の投資を余儀なくされたと見るべきだと思います。それに、失敗のツケが必ず回収される保証はありません。

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