現在、ウクライナでの戦局は膠着状態だ。交戦状態にあるウクライナもロシアも、双方ともに妥協をして停戦に向かう姿勢は見られない。戦争が5年から10年続くことも視野に入れるならば、G7などの先進民主主義諸国のみでウクライナ支援を継続することは困難だ。
ウクライナ支援は強化されるか
ロシアのウクライナ侵攻からちょうど1年となる、今年の2月24日の国連総会では、ロシア軍の即時撤退と「公正かつ永続的な平和の実現」を求める決議が、日本や欧米などの141カ国の賛成で可決された。だがそこでは、中国、インド、南アフリカなど32カ国が棄権した。141カ国の賛成による決議は国際社会の多数と呼ぶにふさわしいが、ロシアの侵略を停止させるために圧力をかけるうえで、インドなどの諸国の協力が不可欠だ。
他方でインドからすれば、そもそもロシアとは武器購入などを通じて緊密な関係にあり、また「非同盟外交」として紛争でいずれらの側にくみすることを避ける伝統があった。いかなる勢力にもくみせずに、多極的な世界を目指すうえで、「グローバルサウスの声サミット」では多様な声を包摂する姿勢を示している。インドは今年のG20サミットの議長国でもあり、それとの協力がカギとなる。
「グローバルサウス」とは、その構成国も、基本的立場も不明瞭で、一枚岩ではない。あまりにも多様な声が、そこには交ざっている。だとすれば、日本が「グローバルサウス」を、「客体」として取り込もうとすることは得策ではないし、可能でもない。グローバルサウス諸国のさまざまな声の違いを認識し、そのひとつひとつに謙虚に耳を傾けることが重要なのだ。
一方的に特定の正義や道徳を他国に押しつけたり、国際社会の意志として統一しようとしたりすれば、それらの諸国はかつての植民地主義を想起して、より大きな反発を生むだけであろう。だとすれば、G7としての結束を図ると同時に、その際に「グローバルサウス」との連携を摸索するという日本の緩やかなアプローチが適切なものといえる。
かつて、国際政治学者の高坂正堯京都大学教授は、「国際社会は、1つであると同時に、多数である」と論じた。G7としての「1つの声」を発すると同時に、国連やグローバルサウスの「多数の声」を尊重する姿勢こそが、求められているのだ。
(細谷雄一/API研究主幹、慶應義塾大学法学部教授)
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