「実質賃金4.1%減の衝撃」が意味する困難な現実 需要側の刺激策がなければ賃金は上がらない

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1.日本企業は諸外国に比べて生産点数が多く、その分、原価計算が難しい。この前、某社の社長からこんな話を聞いた。「私たちが大企業に納品している品目は数千種類ほどあります。もちろん、この数千品目を平等に納品しているわけではありません。その数千品目のうち、ランダムに数個ずつ注文があって、納品しています。その数千品目で使用している材料が高騰するとしますよね、1品目当たり数円の影響があるかもしれません。でも、数千の見積書を再作成して請求するなんて無理ですよ」と教えてくれた。

これはかなりリアルな話だと私は思う。だから原材料やエネルギー、鉱物性燃料等の値上がりを自動的に再見積書に反映するようなシステムを真剣に考えねばならない。

2.原材料等の高騰に対する値上げの合理的な説明をしよう。先述の1は数千も品目があった場合だった。しかし、数少ない品目しか生産していないのに、値上げが通らないケースがある。それは合理的な計算ができない中小企業が多いためだ。たとえば、労務費が上昇するとする。賃金が上がる。しかし、従業員1人当たりの賃金アップが、生産品の1つにどれだけコストアップに連結するかが計算できない企業が多々ある。

行政が中小企業を支援したほうがいいワケ

つまり従業員の給与が月に5000円上がるとする。彼らが日々、多くの製品を生産しているとする。では、間接人員を含めて、1つの製品にいくらの価格上昇を見込むべきだろうか。それが煩雑な計算になってしまう。管理会計上の計算が難しい。

現実的には従業員の賃率(秒当たりコスト)を計算し、それを製品コストに反映する。さらに間接人員については、活動量当たりで製品コストに配賦する。これを活動基準原価計算(ABC~Activity-based costing)と呼ぶ。しかし、現実的には中小企業は計算できていないケースが多い。

私は、この1と2を現場の現実的な問題として提起したい。行政が現実に即して中小企業を支援したほうがいい。つまり、

① 原材料等の上昇を、再見積書に具体的につなげるシステムの構築支援

② コストの上昇を製品1つひとつに振り分けるための、教育制度の充実

以上の2点である。

とくに、私は中小企業の支援メニューとして、②のような具体的な管理会計的な教育制度の充実を提案している例を知らない。ただ考えてみれば、発生しているコストを知り、それを販売価格の設定と交渉につなげることこそ重要だと私は信じる。それに、その具体的手法を支援することこそ、中小企業全体のスキル上昇にもつながる。いまの仕事を強化することはリスキリングよりも重要だと私は思うのだ。

坂口 孝則 調達・購買業務コンサルタント、講演家

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さかぐち たかのり / Takanori Sakaguchi

大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、研修講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。著作26冊。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。日本テレビ「スッキリ!!」等コメンテーター。

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