「老舗の不祥事」賢いダメージコントロールとは 顧客プライバシー保護が甘かった「池田屋事件」

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リスク対応にはある程度原則があります。「謝罪」「事実関係」「原因・経緯」「影響」「対応・再発防止」という5つの要素です。これらに沿ってチェックすると、今回のリリースはある程度できています。しかし最後を見ると、「プライバシーに配慮します」としながらも、桂小五郎の行方や「階段落ち」の真偽(これはフィクションであるとされていますが、芝居などでは重要なシーンになっていますね)を確認すると記すなど、「池田屋さん、まだ分かってないなー」と言わざるを得ません。

広報のスキルは自分がどう見られるかを予測する能力

当たり前のことですが、自分の姿は鏡でもない限り自分で見ることはできません。危機対応においても、自分たちは十分対応している、納得してもらえる説明がしっかりできていると思い込んでしまいがちです。しかし客観的に見ると実はかなり脇が甘々だった、というのはよくあることです。

もし幕末に広報がいたら 「大政奉還」のプレスリリース書いてみた
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誰か一人に情報を集約して危機対応の判断を早くする、これはいいことなのですが、もしその判断すべき人間が甘い判断をしてしまったら、取り返しのつかないことになります。危機対応は社内でも限られた人間だけで対策を検討する場合が多いと思いますから、そこに批判的な視点、セカンドオピニオンを言えるメンバーがいることが、危機対応のチームづくりでは非常に重要になるでしょう。

プライバシーの扱いについての問題は、現代においてより深刻になっています。SNSの登場で誰もが情報発信者になり得るため、そこから思わぬ炎上事件に発展することもあります。情報発信者としての自覚が全くなく、お店に有名人が来店したうれしさからつい投稿したり、家でテレビの前で独り言をつぶやいている感覚で有名人の人格を否定するような投稿をしてしまったりと、プライバシーに伴うリスクは個人にも潜んでいます。

一昔前なら社長が記者会見で不適切発言をポロリ、という点だけ広報は気をつけていればよかったのですが、現在は全従業員に対するリスク教育も欠かせなくなっています。それを怠った企業はどうなるのでしょうか。ちなみに池田屋はその後廃業してしまい、現在は残っていません。

鈴木 正義 アドビ執行役員 広報本部長

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すずき まさよし / Masayoshi Suzuki

ホンダランド(現ホンダモビリティランド)、古舘プロジェクト、メンター・グラフィックス(現シーメンスEDA)などを経て、2004年よりアップルにて本格的に広報専門職のキャリアをスタート。Final Cut ProやiPhoneの広報を担当。2011年からはNECパーソナルコンピュータとレノボ・ジャパン広報。2022年9月からアドビ執行役員 広報本部長。社会人ラグビーチームクリーンファイターズ山梨でも広報を担当。著書に『もし幕末に広報がいたら 「大政奉還」のプレスリリース書いてみた』(日経BP)がある。

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