「老舗の不祥事」賢いダメージコントロールとは 顧客プライバシー保護が甘かった「池田屋事件」

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しかし、これも最近のことです。温泉旅館などへ行くと今でも「歓迎〇〇様ご一行」という看板を玄関に出していたりするので、日本社会は安全だといわれる裏返しといいますか、あまりプライバシーに配慮しない面はあったかと思います。ましてや幕末の時代、どこまで旅籠にプライバシーやセキュリティーの意識があったかについては、疑わしいものがあります。そこでこんなリリースを作ってみました。

報道関係者各位
元治元年(1864年)6月6日
池田屋
 このたびの宿泊のお客様襲撃事件につきまして
 平素は旅籠池田屋をご利用いただき誠にありがとうございます。
 このたび、当旅籠をご利用のお客様が京都守護職配下の新撰組に襲撃される事件が発生いたしました。日ごろ当館をご利用いただいているお客様並びに関係者の皆様に、ご心配とご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。
 この事件に関しまして、当旅籠のお客様情報が適切に管理されていなかったことが原因ではないかというご指摘に対し、当旅籠としての見解と今後の対応をお知らせいたします。
(1)経緯
 事件当日、京都守護職配下の新撰組から「尊王攘夷派は来ているか」とのお問い合わせをいただき、「今晩大きな寄り合いをご予約いただいています」とお伝えしました。その後、武装した新撰組の皆様が再来館され、報道にあります通りの戦闘となり、多くの犠牲者が出る事件となりました。
(2)影響
 事件により土佐藩、肥後藩など尊王攘夷派の志士の多くが戦闘で亡くなられる、または逮捕されました。また、当池田屋主人も尊王攘夷派をかくまっていたとのことで、当局によるお取り調べを受けております。
(3)原因
 当館は京都三条という好立地から、日ごろより長州藩、土佐藩、肥後藩らの尊王攘夷派の皆様にご愛顧いただいておりました。さらなるお客様獲得のため「本日、あの桂小五郎様にご宿泊いただきました\(^o^)/」「尊王派しか勝たん」といった投稿を若手従業員らが頻繁にしておりました。しかし、こうした行為によりお客様に危険が及ぶことへの考えが至らず、新撰組の襲撃を許してしまいました。
(4)再発防止策
 今後は宿泊のお客様の情報を部外者の方にはお伝えせず、プライバシーに配慮した旅籠経営を進めるべく、従業員教育を徹底してまいります。
(5)その他よくあるお問い合わせについて
 宿泊者の中に長州藩の桂小五郎様がいたのではないかというお問い合わせをいただいておりますが、桂様はこの日はお越しにならず難を逃れています。現在も偽名を使い、倒幕活動を続けられているものと思われます。
 また、ご利用客の一人、北添佶磨様が刀で斬られた後、「階段落ち」をしたのではないかというお問い合わせもいただいておりますが、確認ができ次第、公表させていただきます。
 今後もご利用者様のプライバシーに配慮し、安心してご利用いただける旅籠を目指してまいります。

まだ自覚と反省が足りない池田屋

実際のところ、池田屋で会合があると分かったのは当日のことで、SNSもない時代ですから、池田屋が積極的に情報発信していたということはありません。ただ、新撰組が「京都市内のどこかで尊王攘夷派の寄り合いがある」という情報をつかむに至ったのには、何らかのリークはあったと考えるべきでしょう。

今回のリリースは、池田屋としては信頼回復へ向けた重要なものです。宿泊客のプライバシーには十分に配慮していた、あるいは反省すべき点を明らかにし、今後改善するということをマスコミに納得させられれば、池田屋としてダメージコントロールができると思います。

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