心臓血管医が解説「大動脈解離から身を守る方法」 肥満のある40~50代男性と高齢者がリスク大

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その結果、2次的に心筋梗塞や脳梗塞が生じたり、肝臓や腎臓、腸などが虚血を起こして周囲の組織が壊死(えし)したりしていく。

急性大動脈解離
大動脈解離は内膜が裂け、そこから血液が入り込む病気(イラスト:川崎幸病院川崎大動脈センター提供)

大動脈解離が怖いのは、ほとんどの場合、前兆がなく発症するところだ。

突然、強烈な痛みに襲われます。そして、入り込んだ血液が腹部や下肢に広がることによって、痛みは胸から背中、さらには腹部へと移動していく場合があります。この“胸部から背部に起こる激痛”が大動脈解離の大きな特徴といえます」と山本医師。

また、この痛みが数分間という短い期間ではなく、30分~1時間以上続くそうだ。発症直後に意識を失うケースもある一方で、まれだが解離が起きても気づかない「無症候性」のものもあるという。

1時間経過するごとに死亡率は1%上昇

川崎幸病院は2003年、国内で初めて大動脈専門施設の川崎大動脈センターを設立した。同センターでは近隣都県を中心に大動脈関連疾患の患者を受け入れており、2022年の受け入れ患者数は907件にものぼる。

大動脈解離では、1秒でも早く治療を行わなければならない。というのも、1時間経過するごとに死亡率は1%上昇するといわれるからだ。手術ができなかった場合の死亡率は、発症から24時間以内が20%、48時間で30%、1週間で40%、1カ月で50%とされている。

「これは見方を変えれば、早い段階で適切な治療を受ければ命を救うことができるということです」と山本医師。

では、実際、大動脈解離ではどんな治療が行われるのだろうか。山本医師によると、「治療は解離が起こった場所によって変わる」という。

大動脈解離は、大動脈の上の部分(上行大動脈)の解離があるかどうかで、大きく2つのタイプに分かれる。

上の部分に解離がある場合は緊急手術が原則で、人工血管に置き換える手術(人工血管置換術)が行われる。同院での手術時間はおよそ5~7時間で、入院期間は2~3週間ほどになる。

対して、下の部分(下行大動脈)だけに解離がある場合は、手術をせずに保存療法を選択することもある。その場合は安静と血圧のコントロールが中心となり、約3~4週間かけて少しずつ運動量を増やしていく。

ただし、大動脈に5センチ以上の血管の拡大が見つかった場合は、拡大した血管が破裂する恐れがあることから、適切な時期に人工血管置換術などを行う。

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