「ただし、いくつか気になる点がある。成長率は、どのように決めたのかな?」
「成長率は、他社の類似製品の、実際の販売数字を分析して決定しました」
「それらが、我々のドクターズコスメの成長率として使える根拠はどこにあるかな?」
三田村さんは、しばらく沈黙して、答えた。
「ご説明した通り、同価格帯および同じターゲット層向けの製品の、実際のデータに基づく成長率だからです。裏を返せば、それしか参考にできるものが存在しないのです」
「5年前の我々のドクターズコスメでの成長率は使えないのかな?」
「それは使えません。なぜなら5年前のドクターズコスメと、今回の改良したドクターズコスメでは製品が根本的に違うからです。むしろ、同じ成長率であってはいけないのです。班目教授には申し上げにくいのですが、五年前のドクターズコスメの成長率は、当初は良かったと聞いていますが、やがてその値は鈍化しまして、今回の改良につながったというわけです」
予測値は変化を盛り込んで設定する
班目教授はニヤリと笑った。
「そこだよ。成長率に一定の値を与えることに違和感がある。成長率は変化するものなのではないか?」
三田村さんは、深く考えるように口に手を当てて沈黙した。
「成長率はたしかに変動するものです。ですが、変動することを考慮すると、シミュレーションが複雑になりすぎると思います。例えば昨年発売した商品は、成長率ははじめ10%あったのですが、最終的には2%まで落ち込みました。このような変動を取り入れるのは困難です」
班目教授はホワイトボードの前に立った。
「いいや、成長率は変動するという考えはモデルに取り入れるべきだ。計算が難しくなるのを避けたいなら、簡単に考えればいい。例えば成長率が10%から2%に変動するのなら、それぞれ成長率が10%の場合と2%の場合を計算して、グラフに乗っければいい。その間の範囲内に予測が収まるんじゃないか?」
そう言いながら班目教授は、ホワイトボードにグラフを書いた。
「研究者たちも、物理や化学反応のシミュレーションをするときに、このようにさまざまな条件の場合について個別に計算して、おおよその予測を得ることを行う。逆に、シミュレーションのインプット……成長率もそのひとつだが……インプットを変えたときのシミュレーション結果が、どのように変化するかを調べたりすることもある。感度解析という手法だ」
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