「断り方」が上手い人と下手な人の決定的な差 断るときはいきなり「ノー」と言うのはNGだ

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一方、怒りには、その前に感じた感情への反応ではないものもあります。それは、嫌なことが続き、がまんし続けて「困った」感じがたまっているときや、「困った」どころではない危険や脅威に出合ったときです。こういうときの怒りは、まさに怒りそのものです。

自分の身が危ういほどの危機に出合うと、人は、怒って相手を攻撃して自分を守るか、それができそうにないときは逃げることを選びます。「戦うか、逃げるか」の態勢になるのです。

それは、これ以上自分に被害が及ぶのを防ごうとする無意識の自己防衛であり、ギリギリの表現と言うことができます。

怒りは、よくないもの、ネガティブなものではなく、むしろわが身を守るための大切な感情であり、それがあるから人類は生き延びてきたとも言えます。

しかし、がまんしてためすぎたり、自分の危機を伝えなかったりしていると、言いすぎる、怒鳴る、キレる、果ては暴力をふるうといった出し方になるおそれがあります。怒りは、諸刃の剣ともいえる感情なのです。

怒りの感情には、できるだけ早く気づきましょう。「怒っている自分=身の危険を感じている自分、がまんしそうな自分」をしっかり受けとめること。怒りそうになる手前で自分の感情をキャッチできれば、怒鳴ったり、キレたりせず、怒りの手前の「困った」感情を伝えたり、怒りをためずに表現したりすることが可能になるでしょう。

「怒っています」とおだやかに言う

では、怒鳴ったり、キレたりせずに怒りを表現するには、具体的にどうすればよいのでしょうか。

それは、「私は怒っています」「腹が立っています」と、静かに言えば伝わります。怒りの感情を伝えるというと、激しくものを言ったり、不機嫌な態度を示したりすることかと思いがちです。不遜な笑みを浮かべたり、嫌みを言ったりして、攻撃的に振る舞うというイメージもあるでしょう。

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しかし、怒りを表現するには、必ずしも攻撃的になる必要はありません。「嫌な感じ」「怒りそう」という気持ちを静かに、おだやかに言うだけで十分伝わります。

もし、「静かに伝えても、怒りを伝えるのは相手を大切にしていることにならないのではないか」と思う人がいたら、こう考えてみてはどうでしょうか。本音を隠して表面的に愛想よくするよりは、オープンに「こんなとき私は怒る人なのです」「それには耐えられない自分がいます」と伝えるほうが、互いを大切にする方向を目指せている、と。

ただ、怒りをできるだけ静かに伝えても、相手が気分を害したり、傷ついたりすることがあるかもしれません。人は、相手のことをすべてわかるほど万能ではありません。

・いくら気をつけても、傷つけてしまうことはある
・傷ついたと言われたときは、相手が危険を訴えていることを認める
・「そんなつもりはなかった」としても、そこは言い訳の場ではない

これを踏まえて、心から謝り、どう修復するかに心を砕くことが大切です。

平木 典子 臨床心理士、家族心理士

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ひらき のりこ / Noriko Hiraki

1959年津田塾大学英文学科卒業後、ミネソタ大学大学院に留学し、カウンセリング心理学を専攻(教育心理学修士)。帰国後、カウンセラーとして活躍する一方、後進の指導にあたる。日本におけるアサーション・トレーニングの第一人者。立教大学カウンセラー・教授、日本女子大学教授、跡見学園女子大学教授、統合的心理療法研究所(IPI)所長を経て、2019年より日本アサーション協会代表。臨床心理士。家族心理士。著書は、『アサーション入門』(講談社)、『図解 自分の気持ちをきちんと「伝える」技術』(PHP研究所)、『マンガでやさしくわかるアサーション』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

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