「ロシア軍に包囲された街」バフムート緊迫の行方 日本人写真家が見たウクライナ最前線の今

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バフムートからシベルスク周辺へと続く戦闘地は今どうなっているのか。この地域を統括するウクライナ軍の司令官は、スマートフォンを使って1本の動画を見せてくれた。戦闘中の兵士がボディーカメラを装着して記録した5分の動画には、塹壕の中から攻撃を続けるウクライナ兵のかけ声も収録されていた。

〈手榴弾をもっと、もっとだ。マシンガンのマガジンを急いで再装填しよう〉

前方から飛んできた「ヒューン」というミサイルの音が聞こえる。ウクライナ兵は腕を上げ、銃を連射する。そのとき、地上で銃を構えていた兵士が倒れた。動画公開時のコメントには「敵兵」つまりロシア兵だと記されている。ロバートキャパが撮影したとされるスペイン内戦時の写真「崩れ落ちる兵士」さながらの光景だ。

別の兵士は戦闘後に撮影した動画を再生した。ゆっくりと移動しながら撮影された映像には、塹壕のような場所のそばに転がっている軍服姿の人が複数、記録されていた。ロシア兵の死体だという。私は地図を差し出し、その兵士に撮影場所を尋ねてみた。すると兵士はシベルスクの東、街に最も近い位置の戦闘地付近を指さした。

兵士の右手は、中指の甲と小指の甲が腫れてひび割れた状態になっていた。左手の中指も同様で、両手とも全体が腫れていた。この日、シベルスクの最高気温は氷点下3度、最低気温は氷点下9度。凍てついた荒野での接近戦で兵士たちの肉体は限界に達しているようだ。

昨年2月24日、ロシアによる軍事侵攻が始まって以降のウクライナ市民の死者数について、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は1月16日、7000人を超えたと発表した。ウクライナ兵の死者数については12月1日、ミハイロ・ポドリャク大統領顧問が1万3000人にのぼると明らかにしている。

陥落寸前のバフムートはどうなるのか。ウクライナのゼレンスキー大統領はイタリアの新聞Corriere della Sera(2月19日付)のインタビューに対してこう答えた。

「(バフムートを守るため)どんな犠牲を払っても、皆が死んでも、ということではありません。われわれは抵抗し、その間に次の反撃の準備をする。われわれは早い終戦とわれわれの勝利のために準備している。早ければ早いほど、犠牲者は少なくなります」

尾崎孝史氏によるウクライナのレポート。過去一覧はこちら
尾崎 孝史 映像制作者、写真家

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おざき たかし / Takashi Ozaki

NHKでドキュメンタリー番組の映像制作に携わる。映画『未和 NHK記者の死が問いかけるもの』(Canal+)を監督。

著書に『汐凪を捜して 原発の町 大熊の3・11』(かもがわ出版)。『未和 NHK記者はなぜ過労死したのか』(岩波書店)。写真集『SEALDs untitled stories 未来へつなぐ27の物語』(Canal+)で日隅一雄賞奨励賞、JRP年度賞。

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