トルコ地震「高級耐震マンション」が崩壊したなぜ 旧建築基準の耐震性にも劣る欠陥建築

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アスール団地は、トルコ全土の経済成長に拍車をかけた建設ラッシュの一環として、マラティヤに新しく建てられた多数の住宅プロジェクトの1つにすぎない。サッカー場やバスケットボールのコートを備え、「第一級の品質」を売り物にしたアスール団地は、医師、警察官、教師といった中間層世帯を惹きつけた。

アスールの団地が潜在的な欠陥を抱えたまま設計・施工されたのかどうか、あるいはその後の改修で構造が弱くなったのかどうかは、即座に断定できるものではない。最新の耐震基準を順守している開発業者でも、地震による横方向の力や振動、揺れに耐えられる高層ビルを設計するのは簡単ではないからだ。

違法建築を合法化した政府の責任

一般にこの規模の地震は、厳しい基準によって建物に高い耐震性を求めているカリフォルニアのような場所であっても深刻な被害をもたらすと、エンジニアたちは警告する。ただ、アメリカでは多くの家庭が軽量な木造住宅に住んでおり、倒壊が必ずしも住人の命に直結するわけではない。

これに対し、トルコでは5〜10階建ての鉄筋コンクリート造りの集合住宅のほうが一般的であり、そうした重いビルが倒壊すると命取りになる可能性が高くなる。

トルコでは古い建物のほうが脆弱だ。1990年代後半から採用が始まった新しい建築基準は、2007年に改訂され、2018年に再改訂された。

2018年に導入された恩赦法も、建築基準の順守をないがしろにする原因となった。開発業者や個人は建築基準に違反しても、罰金さえ払えば違法建築物の事実上の認可を得ることができた。環境都市省によると、このプログラムで政府が手にした収益は31億ドルに上る。

もう1つの懸念は検査手続きの甘さだ。2007年の建築法では、いったん認可を受けた建物は検査不要となるため、無認可の改修を行うことが可能となっていた。

トルコ技術者建築家会議所連合のギリトリオグルが言う。「自動車は2年ごとに検査を受け、安全に運転できることを確認する。それなのに建物は、一度建てて認可を受けてしまえば、技術者に相談することなく柱を切断したり、修復を行ったりすることができるのだ」。

(執筆:James Glanz記者、Ceylan Yeginsu記者)

(C)2023 The New York Times

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