元詐欺師が激白「高齢者をだます」手口の一部始終 特殊詐欺を「支える」さまざまな業者

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ーー被害者が聞き入れてしまうと。

初めに小さな要求をのませ、最後には大きな要求を通す「フットインザドア」という手法です。その後、老人ホーム職員役が老人ホームZ社を名乗って電話をかけます。「申し込みには審査がある」と言って、金融資産や預貯金額を聞き出す。審査に通ったら、再びはじめに電話をしたX社から電話をかけ、「入居金はうちが支払っておく」と伝えます。

老人ホームZ社(詐欺グループ):入居金が振り込まれましたが、Aさん名義ではなく、X社の名義で振り込まれています。どういうことですか? X社ってなんですか。
被害者:いや、僕は何も知らなくて……。

老人ホームに問い詰められて焦った被害者はX社に電話をかけます。X社は「いや、大丈夫です。変なこと言わないでください。それ言っちゃったらちょっとあれなので」とごまかします。そこに老人ホームZ社から再び電話がかかってくる。

老人ホームZ社(詐欺グループ):X社を調べたら、入居権の名義貸しで不正にお金を取ろうとする業者ですよね。おたく、そことつながっているんですか。
被害者:いや、違うんですよ!
老人ホームZ社(詐欺グループ):名義貸しは犯罪ですよ。警察に捕まりますよ。

こうして被害者を追い詰めて口論になった末、被害者の話をよく聞きます。「わかりました。それならあなたは悪くない」と味方に回るのです。喧嘩をした後に仲良くなると距離が縮まる。喜怒哀楽を与え、判断能力を鈍らせるのです。

「名義貸しは犯罪ですよ」と恐怖を植え付けた後に、「あなたを助けたいから、一度この物件を買いましょう」と解決策を示す。老人ホームZ社の担当者は、被害者を助けるために自分もお金を出すと伝えます。要するに「あなたと僕は一心同体ですよ」と。被害者は「一緒にやってくれているから、がんばろう」と思わせる。いろいろな心理を突いてお金を出させるんです。

女性や教養人がだまされやすい

ーーどのような人がだまされやすいのでしょうか。

電話を切らずに人の話を聞いてしまう人や、自分はだまされないと思っている人です。金融の知識がある人も多い。教養のある人はプライドが高く、人に相談しなかったりするんです。

高齢の女性はターゲットになりやすい。話を聞いてしまう人が多いからです。電話口であっても「○○さんは本当に声がかわいいですね」と褒められると嬉しいもの。褒められて嬉しくなると、親近感がわくじゃないですか。相手が何を言ったら喜んでくれるか、信用してくれるかをつねに考えていました。

ーー詐欺被害に遭わないための対策はありますか?

まず固定電話の電話番号を変えることです。もしくは電話機を最新の迷惑電話防止機能付きのものにすること。みなさんも実家の電話番号は何十年も変わっていませんよね。昔からある電話番号は名簿として出回っている可能性があります。

電話でお金の話をされたら詐欺だと疑い、すぐに相談できる相手がいることも重要です。ですから、高齢の家族がいる人は1週間に1回でいいので電話をするなど、日頃からコミュニケーションを取ってほしい。

だまされないためには、表面だけ、見た目だけの情報を信じず、裏側に何があるかを考えることも重要です。

情報提供をお願いします東洋経済では詐欺や詐欺まがいの手法について情報を募っています。ご協力いただける方はこちらへ。
井艸 恵美 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事