「BEVで大苦戦」する日系メーカーが勝ち残る条件 中国市場でハッキリ分かれた「日本車の明暗」

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3つ目は、日系高級車の低迷だ。ガソリン車を中心とする高級車市場は、新車市場でNEVと対抗できる数少ない分野である。中国の高級車販売台数は、2022年に前年比11.1%増の388.6万台となり、乗用車販売台数全体の16.5%に占めるまで増加した。

一方、中国で現地生産する日産の高級ブランド「インフィニティ」の2022年販売台数は6391台であり、ピークであった2017年のわずか8分の1まで落ち込んだ。

2021年には世界戦略車の1つ「QX60」も投入したが……(写真:INFINITY)

ホンダは高級車ブランド「アキュラ」の中国生産・販売を2023年に停止。また、全車が輸入となるレクサスは、低燃費効果と高い技術力を幅広い消費者層に訴求するものの、2022年の販売台数は前年比22.5%減の17.5万台で、中国進出以来の初のマイナス成長となっている。

車載半導体の不足がレクサス販売の足枷になる一方、メルセデス・ベンツやBMWなどドイツ勢の値下げ攻勢や、アメリカのテスラをはじめとした高級BEVの好調が販売減少の一因であろう。

「メイド・イン・ジャパン」の看板を背負うレクサスでさえ、曲がり角に直面しているのだから、中国における日系高級車の厳しさが示唆されている。

「電動車への買い替え」が勝ち抜くカギ

4つ目は電動化シフトの遅れだ。NEV市場では、地方政府の補助金政策、農村部における販売促進、海外輸出などの後押しにより、販売台数は前年比1.9倍の688万台に達した。新車販売に占める割合は、コロナ禍前である2019年の4.6%から25.6%へと、大きく上昇している。

日系自動車メーカーはガソリン車を主力に据え、不確実性の高いBEV市場は慎重に見極めていく方針を採っていたが、こうした電動化トレンドの変化を受け、ようやくBEV生産体制の構築に踏み出したところだ。

2022年に投入したトヨタの「bZ4X」「bZ3」、ホンダの「e:Nシリーズ」、日産の「アリア」が、中国でのBEVモデルとしてあげられる。

日本では販売されていないセダン型BEV「bZ3」(写真:トヨタ自動車)

しかし、ガソリン車市場で構築した日本車のブランド力は、BEVの販売増にはつながらなかった。NEV市場に占める日系ブランドのシェアは、2022年に1.7%にとどまっている。

電動化シフトが加速する中国では、今後もガソリン車需要は減少の一途を辿り、市場競争も一層熾烈になると予測される。一方、“世界のBEV試験場”と言われる中国で、日系メーカーが既存の顧客層であるガソリン車ユーザーの電動化需要に対応することができれば、それは各社にとってグローバル市場で勝ち抜く1つの条件になるだろう。

省エネ車の競争優位をいかに維持しながら規制対応を含むBEVの差別化戦略に取り組むかが、今後の中国事業に共通の課題と言える。

湯 進 みずほ銀行ビジネスソリューション部 主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授

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タン ジン / Tang Jin

みずほ銀行で自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、中国自動車業界のネットワークを活用した日系自動車関連の中国事業を支援。現場主義を掲げる産業エコノミストとして中国自動車産業の生の情報を継続的に発信。大学で日中産業経済の講義も行う。『中国のCASE革命 2035年のモビリティ未来図』(日本経済新聞出版、2021年)など著書・論文多数。(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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