いわき市の医療が徐々に改善へ、地元医師の診療継続、医師会の支援活動が奏功【震災関連速報】
大事故を起こした福島第一原子力発電所から半径30~50キロメートル圏に位置する福島県いわき市。原発事故をきっかけに、市民の屋内退避や首都圏などへの避難が進み、人口34万人の街から人影が消えた。だが、残された市民の中には、高齢者など医療を必要とする人も多く、地元医療関係者は放射能による不安と闘いながら、診療活動を続けている。
3月16日、日本医師会の緊急記者会見で、3月13~15日にいわき市を訪れた永田高志・日本医師会救急災害医療対策委員会委員(九州大学病院救命救急センター特任助教、姫野病院勤務、写真)は現地の医療状況について報告。「いわき市内では、被ばくを恐れて外部からの応援がほとんどない」「病院、避難所、保健所では水、食料、ガソリン、薬剤が不足しており、あと1、2日で活動が止まる可能性が高い」と警鐘を鳴らした。
だが、現地医療従事者の診療継続に加え、日本医師会および都道府県医師会による診療活動開始、愛知県医師会による医薬品など救援物資の緊急輸送が功を奏し、最悪の事態は回避された。
永田氏は17日に再度いわき市を再度訪問。日帰りで東京に戻るとともに、日医関係者などと放射能の観測データなどを元に、診療活動の安全性確認の作業を行った。そして、専門家などの意見から、「屋内で十分に配慮すれば、診療は可能」と判断。「放射能に対する国民の不安が非常に高まっている中で、いわき市への日医主導の災害医療チームJMAT活動本格化の突破口を切り開いた。
3月18日には「復興への第一歩」として、いわき市長とJMATチーム(愛知県医師会)による共同記者会見を実施。20日には平体育館で市民集会が開催され、長崎大学大学院の山下俊一教授が市民向けに放射能に関する正確な理解を深めることを目的とした講演を行った。
永田医師によれば、「山下教授は市民からの質問に一つ一つ懇切丁寧に回答。放射能が怖くて散歩もできないと訴える女性には、明るい空の下で歩いて構いません、などと語って勇気づけていた」という。
永田医師は観測データの分析や専門家の意見を元に、「過度の不安を感じる必要はない」と判断。「医療活動が呼び水となって、物流など経済活動の活発化につながることを期待している」(永田医師)。20日時点では水道が復旧していないために感染症の拡大など衛生上のリスクが懸念されていたが、あと1週間もすれば水道は回復する可能性があるという。ガソリンの供給についても、22日以降、改善の兆しが見え始めている。
医療スタッフが現地で活動を続けることで復興への希望につなげたいわき市。「次の課題は避難所などへの診療全般をコーディネートする役割の確立だ」と永田医師は話す。一歩一歩ではあるが、正常化に向けての動きは始まっている。
(岡田 広行 =東洋経済オンライン)
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