東大理Ⅲ生「留年取消訴訟」、地裁差し戻しの重み 「単位不認定は争いうると東京高裁が明示した」

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そのうえで、地裁判決を取り消し、審理を地裁に差し戻した。杉浦さんの代理人の井上清成弁護士は「単位不認定は争えないという誤解が全国の大学にあると思うが、東京高裁が争いうるということを明示した。口頭弁論を開かなかった地裁は極めて異例で、実体的な審議がないため、高裁は戻さざるをえなかった」と見ている。

東京高裁は杉浦さん側と東大側に最高裁に上告をする「上訴権」を放棄してはどうかと提案した。理由の説明はなかったが、井上弁護士は「杉浦さんが進級するためにととらえている」と、年度内の救済に期待を寄せる。杉浦さん側はすでに放棄した。東大は6日、取材に対し「本件係争中につき、回答は差し控えさせていただきます」と回答した。井上弁護士によると、東大の弁護士から「上訴権の放棄については全て法務省本省の指示に従うことになっており、東大だけでは決められない」と連絡が入っているという。

コロナで留年を余儀なくされた学生への助けになるか

杉浦さんの進級のために残された時間は2カ月もないが、今回の差し戻しでようやく出発点に立つことができた。

杉浦さんの進級の可能性について井上弁護士は「東大側が、これまでの杉浦さんのレポートを評価しなおして3年生に進級させる措置はありえる。今回の杉浦さんの単位不認定は裁量権の逸脱的な行為があったために起きたと考えているので、適切な裁量をしてほしい」と話している。

コロナ発症で留年を余儀なくされた大学生は少なくないだろう。今回の東大の対応を見ると、いまだに100点中26点という杉浦さんの低い評価についての具体的な説明をしないなど、不誠実な対応をしてきた。その背景には、学生が不満を持っても単位の認定が「大学の自主的、自律的な判断に委ねられるべきもの」(東大の意見書)として不可侵であるというおごりがありはしなかっただろうか。

杉浦さんは「ぼくの訴訟をきっかけに、より学生の立場に立った対応を取ろうよ、という議論が進めばいいと考えています」と話すが、今回の高裁判決が、単位の認定も場合によっては裁判の判断の対象になることを示したことは、全国の大学生にとって大きな意味を持つだろう。

松浦 新 朝日新聞記者

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まつうら しん / Shin Matsuura

1962年愛知県生まれ。東北大学卒業後、NHKに入局。1989年朝日新聞入社。東京本社経済部、週刊朝日編集部、特別報道部、経済部などを経て、2017年4月からさいたま総局。共著に『ルポ 税金地獄』『ルポ 老人地獄』(ともに文春新書)、『電気料金はなぜ上がるのか』(岩波新書)、『プロメテウスの罠』(学研パブリッシング)ほか。

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