したがって、われわれ国民は、防衛力の強化が始まったら、増税されなくとも、自動的にインフレという負担を課せられることになる。
もし防衛力を急激に増加させれば、その代償として、国民は高インフレによって生活を圧迫されることになるだろう。しかも、その高インフレという代償を払うのは、「今を生きる世代」である。要するに、国を守るために、今を生きる世代が共有しなければならない真の負担とは、税ではなく、高インフレなのである。
その意味において、「有識者会議」が、防衛力の強化には「自らの国は自ら守るとの国民全体の当事者意識」が必要であり、その負担は「今を生きる世代全体で分かち合っていくべきである」と言ったのは、正しかった。ただ、資本主義における政府の財源についての理解が間違っていたのである。
なお、資本主義の仕組みやその下での国家財政のあり方について、この短い論考では十分に説明できていないので、詳細は『世界インフレと戦争』を参照願いたい。
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なかの たけし / Takeshi Nakano
1971年生まれ。東京大学教養学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2003年にNations and Nationalism Prize受賞。2005年エディンバラ大学大学院より博士号取得(政治理論)。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『政策の哲学』(集英社)など。主な論文に‘Hegel’s Theory of Economic Nationalism: Political Economy in the Philosophy of Right’ (European Journal of the History of Economic Thought), ‘Theorising Economic Nationalism’ ‘Alfred Marshall’s Economic Nationalism‘ (ともにNations and Nationalism), ‘ “Let Your Science be Human”: Hume’s Economic Methodology’ (Cambridge Journal of Economics), ‘A Critique of Held’s Cosmopolitan Democracy’ (Contemporary Political Theory), ‘War and Strange Non-Death of Neoliberalism: The Military Foundations of Modern Economic Ideologies’ (International Relations)など。
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