また近年で言うと、『となりのチカラ』(テレビ朝日系、2022年放送)で演じた小説家志望の中越チカラは、困っているひとを見ると放っておけないくせにいつも失敗ばかりしている情けない男。格好悪いという意味では、今回の家康のキャラクター設定に似ている面もある。
一方で、『永遠のニㇱパ 〜北海道と名付けた男 松浦武四郎〜』(NHK、2019年放送)では、幕末から明治にかけて活躍した探検家・松浦武四郎を演じ、戦国時代とは異なるものの歴史ドラマの経験を積んだ。意識していたわけではないだろうが、いま振り返ればこのように今回の出演への準備は着々と進んでいたとも言えそうだ。
俳優・松本潤の魅力、古沢脚本との相性の良さ
以上のように、俳優・松本潤は多彩な役柄を演じてきた。だがそこに一貫して感じられるのは、どんな物語でもその世界にすっと入り込む才能である。主役であったとしても、無駄に我を張ることなく物語のなかで与えられた役割をきちんと演じきる。そんな役柄への理解度の高さが際立っている。
今回の作品の脚本を担当する古沢良太は、脚本家としてこれまで『リーガル・ハイ』(フジテレビ系、2012年放送開始)、『デート~恋とはどんなものかしら~』(フジテレビ系、2015年放送)、『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系、2018年放送開始)などの人気作を世に送り出してきた。
それらに共通するのは、いずれもコメディータッチということである。小ネタやギャグを織り交ぜるというよりは、個性的なキャラクターたちによるセリフのやり取りの妙によって面白さを生み出していく。
そして、堺雅人が演じた『リーガル・ハイ』の弁護士・古美門研介などのように、古沢作品に登場する男性主人公は普段は変わり者で小心者であったりするが、いざとなると覚醒して本領を発揮する。そこに独特のカタルシスがある。
『どうする家康』でもこうした古沢ワールドは健在だ。家康と家臣団のテンポの良いやりとり、そして「どうする?」と迫られて右往左往する家康の姿は、どれも真面目な場面でありながらどこかユーモラスな部分がある。物語の世界に無理なく入り込む松本潤の演技は、こうした古沢良太の作風と間違いなく相性が良い。
そのうえで、アイドルとしても王道を歩んできた松本潤は、主人公が覚醒する場面に欠かせない華も兼ね備えている。例えば、第2回のクライマックスで、家康が武力ではなく迫力あふれる演説によって敵の包囲を解かせた場面などは、彼ならではの目力の魅力も相まって印象的だった。
このドラマはそうした覚醒の繰り返しによる家康の成長物語でもあり、その意味で徳川家康はアイドル的でもある。それを本物のアイドル・松本潤が演じる作品として楽しむ見方もあるだろう。
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