日本企業の「給付型奨学金」が貧弱すぎる3大要因 若者を支援したくても、断念せざるをえなかった

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もし仮に、あなたが企業の奨学金事業担当者になったとしましょう。企業としても奨学金を学生に給付することは、イメージアップにもつながるし、成績優秀な学生が自社に来てくれる可能性が高くなる……と、給付型奨学金の創設に前向きです。あなたをプロジェクトの責任者に任命した、部長(上司)は次のように言います。

「これは社長の鶴の一声で始まったプロジェクトだ。社長はもともと貧しい家の出身で、大学時代は新聞奨学生だったそうだ。だからこそ、奨学金制度には恩を感じているようでな……。このプロジェクトが失敗するのは、社長の顔に泥を塗ることを意味する。それをわかったうえで、真剣に取り組んでほしい」

ですが、理想は理想であり、実際に運用していくのはとても大変なことがすぐにわかってきます。

「給付型奨学金」のノウハウを持っていないと…

まず最初にぶつかるのが、「決めることが多すぎる」ということです。企業に給付型奨学金のノウハウはないので、ゼロから作っていく必要があります。給付額はいくらにするか、対象者は何人か、どう選考するかの基準設定。そして実際に運用した場合、広報宣伝、応募受付、選考、給付開始手続き、毎月の振り込み、1年~数年に及ぶ管理…など、やることは多岐にわたります。

給付額の予算は見積もりやすくても、運用に関わる広告費や人件費などの予算はなかなか想像しにくく、あなたひとりで運営していけるのか、何人のチームにすべきなのか、まったく予想がつきません。また、予算があったとしても「いくらかけたら何ができて、どのくらいの効果が見込めるか(たとえば採用につながるか)」といった予測も立てづらい面もあります。

会社員経験者ならわかっていただけると思うのですが、このような状態では社内の決裁が下りません。社長に最終チェックしてもらう前に、上司である部長に「これでは社長に見せられないよ。なんとかならないのか?」と止められてしまいます。

ここをなんとかクリアして、いざ始めたとしても「運営の負担の大きさ」は想像以上でしょう。例えば、毎月の入金ひとつとっても積み重なるとそれなりの負担になりますし、個人情報なので管理も大変です。紙で届いた数百人に及ぶ応募者の個人情報を、まずエクセルにすべて入力する作業から選考がスタートします。結構な業務量になりますし、ミスも出やすいのでダブルチェックなどが必要になります。単純な作業ではありますが、個人情報を扱うこともあって、1つひとつの工程にかなりの時間とマンパワーを要します。

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