今の大綱を変えずに「いずも」級を導入するということは(いずも級は2隻導入が決定されている)、閣議決定された防衛大綱の護衛艦の定数54隻を、海自が勝手に護衛艦を52隻に減らして、2隻のヘリ空母を加えたということなのだ。
これは文民統制という意味でも大きな問題だ。問題なのは日本共産党や社会民主党のような左派政党まで含めて、政治家がこれにまったく無関心だとうことだ。「いずも」はもちろん、「ひゅうが」級導入に際して、国会では議論も起こらなかった。つまり「やった者勝ち」だった。
陸自はかつて、73式ジープの「改良型」と称して新型を導入した。だが73式が米国のウイリス・ジープのライセンス品だったのに対して、新型は三菱パジェロをベースとしたまったく新しい車体だった。これはキャデラックを改良するとレクサスになるというようなものだが、これを名称がまったく同じ「73式」、既存車の改良型として国会で承認された(現在は1/2トン・トラックと呼称)。つまり、国会と納税者をだましているのである。「いずも」の件もこれと同じだ。
確かにヘリ空母として導入するためには、政治的な軋轢もあるだろうし、大変な根回しや書類作業が必要だろう。だがそれは民主主義、文民統制のコストである。このような場当たり的な、なし崩し的なやり方を許せば、それがモルハザードを生むことになる。防衛省や自衛隊の政治や納税者を無視した「独断専行」は、その「前例」を盾にとってさらにエスカレーションするだろう。
なぜ「いずも」の調達予算が通ったのか
それにしても、なぜ22DDH「いずも」の開発および調達予算がすんなりと通ったのか。当時を振り返っておこう。
かつて16DDH「ひゅうが」の予算要求に際してはかなりの反発があると予想され、当時の石破茂防衛相は「あらゆる質問を想定し、回答を用意していたがまったく質問がなく拍子抜けした」と後に筆者に語っている。22DDHの予算要求に際して疑問を呈したメディアは筆者の知る限り「週刊金曜日」だけである。
政治家が軍事に関心を示さず、防衛省、自衛隊の「やった者勝ち」を放置しておけば、いずれは、満州事変のような「軍部の暴走」が起こる可能性もある。「たかが『軍艦』の呼び方」では済まされない問題なのだ。
「いずも」を護衛艦=駆逐艦として扱うことは、運用上でも問題がある。「駆逐艦」と同じような任務に「空母」を当てることはできない。「いずも」は近接防御兵器しか持っておらず、護衛艦による護衛が必要な艦である。護衛艦ではなく「被護衛艦」である。
たとえばDD(汎用護衛艦)2隻、あるいはDD1隻とDDG(ミサイル護衛艦)1隻というような組み合わせができない。「いずも」と護衛艦=駆逐艦1隻を組ませると、駆逐艦としての攻撃力は1隻分に過ぎず、その1隻は「いずも」の護衛をする必要がある。
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