文民統制の放棄!なぜ「空母」が生まれたか 護衛艦「いずも」は、護衛能力のない被護衛艦

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飛行甲板はオスプレイや米海兵隊などが採用した垂直離着陸が可能なF-35B戦闘機が離発着地に噴出する高温の排気ガスに耐えられる処理がされている。「いずも」が企画されたのはオスプレイの調達のはるか以前であることから、恐らくは米軍との共同作戦を想定して、このような処理をしたのだろう。

自衛艦旗を受け取り、艦内に入っていく乗員達

乗員は最大470名で、このうちヘリ要員と司令部要員が併せて270名、そのほかの乗員は200名となっている。幹部(将校)以外の女性自衛官が90名程度乗り込めるような設備(シャワーなど)も備えられている(幹部は個室なので特別な設備は必要ない)。

「ひゅうが」級と大きく異なるのは、車両などの輸送用デッキを装備していることだ。トラックならば陸上自衛隊の標準的な3.5トントラック50台を艦内のデッキに収容できる(飛行甲板含まず)。この場合、ヘリコプターを搭載するスペースはなくなる。このデッキの高さは地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が搭載できる前提で設計されている。また、F-35B戦闘機やオスプレイも収容も可能だ。ただ戦車などの装軌車輛は履帯でデッキ床面がこすれるために搭載することはできない。

災害派遣などのヘリコプターと車輛などを混合したパッケージ例としては、艦内デッキにUH-60Jヘリコプターを3機、C-47ヘリコプターを3機収容、飛行甲板に車輛3.5トン・トラックを35輛搭載できる。 

衛生関連では手術室と病室は35床を備えており、長期的な宿泊が可能な収容人員は450名である(「ひゅうが」級は100名)。このため災害派遣や海外での人道援助などにも対応できる。当然ながら揚陸作戦でも大きな威力を発揮するだろう。これら能力は「ひゅうが」級を大きく凌駕しているといってよいだろう。

「いずも」級は「ひゅうが」級にはないほかの艦への給油機能も有している。給油用燃料の容量は航空用燃料と併せて3000キロリットルとなっている。ただし、航空用と艦艇用の比率の振り替えができず、比率を変える場合は工事が必要だ。

「いずも」には攻撃用の兵装がない

一方で、武装は貧弱だ。「ひゅうが」級が各種対艦、対空ミサイルなど18発が発射できるVLS(垂直発射装置)、魚雷発射管、アスロック(対潜ミサイル)発射基、短SAM発射基、CIWS(Close in Weapon System:近接防御火器システム)を有しているのに対して、「いずも」級は個艦防御用の多砲身の20ミリ機関砲とセンサーを組み合わせたCIWSが2基と、CIWSの機関砲を11連装の短距離ミサイルに置き換えた近接防御用のSeaRAM2基のみとなっている。

イタリア海軍のホームページに掲載された「カブール」の写真。イタリア海軍は、空母(Portaerei)と称している

駆逐艦のような対空ミサイルや、艦砲、対艦ミサイル、艦砲、魚雷といった攻撃用の兵装は有していない。つまり、「いずも」級はヘリコプター以外の攻撃手段をほとんど持っておらず、イタリア海軍の「カブール」、スペイン海軍の「ファン・カルロス1世」など諸外国の多目的空母、あるいは多目的強襲揚陸艦に近い。

駆逐艦としての武装を持った「ひゅうが」級ならばまだ「これは駆逐艦である」と強弁できるだろうが、「いずも」級は完全にヘリ空母、あるいは多目的空母、多目的揚陸艦に分類されるものだ。これを空母ではない、駆逐艦だと強弁すれば、世界の海軍から失笑されるだろう。

では、なぜ海上自衛隊は空母を「護衛艦=駆逐艦」と強弁するのだろうか。それにはいくつか理由がある。まず「空母」を開発、調達するとなると世論や国会が煩わしい。次いで海上自衛隊の訓令を変更し、艦種に空母を加えなくてはならない。また防衛大綱も書き換えが必要となる。防衛大綱の別表には自衛隊の主要装備の定数が記載されているが、これを書き換える必要が出てくる。

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