このままでは、日本はW杯に出られなくなる セルジオ越後に聞く「日本サッカーの問題点」

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僕は42年前に、ブラジルから日本にやって来ました。その頃から「サッカー人口は増えていないと」言ったら、驚きませんか?

――ええ。ただ、登録者の数は増加しているはずでは?

たしかに登録人口は増えました。けれども、本当にサッカーを楽しんでプレーしている人の数は増えていない。30人だったサッカー部員が180人になったけど、依然として1校から1チームしか登録できないから、補欠の人数が増えただけなんです。

今、日本は少子化問題を抱えていますよね。子どもの数が減っていけば、スポーツ界はその影響をモロに受けます。でも、サッカー界はまだ全然動いていない。どのチームもたくさんの「補欠」を抱えたままです。

ただでさえ子どもの数が減っているんだから、可能性の芽を少しでも潰さないように、みんながサッカーを楽しめる環境を整えなければなりません。そのためにも「補欠」は一刻も早く廃止すべきだと僕は思います。

皆が「甘えの構造」を許したら、取り返しがつかなくなる

――「代表監督が替わっても何も変わらない」(第1回のインタビュー参照)とおっしゃっていたのは、監督の資質ということよりは、「サッカー協会の体制」、「メディアの報道姿勢」、「日本におけるスポーツ文化」という3つの問題を含め、根深い問題を抱えているということですね。

そうなんです。それに日本の国民も、その競技が世界で勝つことを本気で求めていないようにも感じるから、サッカーに限らずスポーツ全般において、日本は国際舞台で勝つのが難しい国だと思います。

思い出してください。昨年の夏、ブラジル・ワールドカップで惨敗した日本代表が帰国したとき、2000人近くの人たちが空港で選手たちを拍手で出迎えました。これには選手のほうが驚いたほどでした。

その2カ月後、札幌でのウルグアイ戦では、ワールドカップでの惨敗を忘れたかのように黄色い歓声が飛び交い、まるでアイドルのコンサート会場のようでした。

ブラジルでは、サポーターは選手にとって親のような存在だと言います。子どもを育てるとき、甘やかしてばかりではダメでしょう。ときには厳しく叱らなければいけない。でもそれは、愛しているからこそ。一方、日本のサポーターは甘やかしてばかり。本当に選手のことを思っているのか、疑問を覚えます。

今のままでは日本代表がワールドカップに出られなくなる日が近い将来、必ず訪れると思います。日本のサッカー界は代表人気に支えられているから、サッカー人気はどん底に落ちますよ。

そうなったとき、真っ先にいなくなるのがミーハーなファンとサッカーを金儲けの手段としか考えていなかったメディアです。みんなが黙っていたら、取り返しがつかなくなるぐらい、サッカー人気は落ち込んでしまいますよ。一度落ち込んでしまったものを取り戻すのは、本当に難しい。

日本のサッカーを本当にどうにかしたいと思っているなら、今こそ立ち上がらなければいけないんじゃないですか。僕は来日して以来、日本に良くしてもらってきた。恩返しをしたいから、諦めずに言い続けていくつもりです。

飯尾 篤史 スポーツライター

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いいお あつし / Atsushi Iio

東京都出身。明治大学卒業後、サッカー専門誌の編集記者を経て2012年からフリーランスに転身、スポーツライターとして活躍中。『Number』『サッカーダイジェスト』『サッカーマガジン』などの各誌に執筆。著書に『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成に岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(ベスト新書)などがある。

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