アカデミー作品賞「トップガン」推す声の切実事情 配信に押された映画館の存在意義を取り戻せるか
今年も作品賞候補の中にドイツ映画『西部戦線異状なし』と、スウェーデン他合作映画でカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作である『逆転のトライアングル』が入った(代わりに、有力視されていた『バビロン』、『ナイヴス・アウト/グラス・オニオン』などハリウッド映画が候補入りを逃した)。
それらの映画を愛する、世界各国の主要な映画祭を常に訪れる北米外の映画人の中には、トム・クルーズというハリウッドの顔とも言える大スターが主演する娯楽大作『トップガン』は、イメージだけで「テイストに合わない」と決めつけている人もいると思われる。そこは、大きなハードルだ。
次に、過去の統計から考えてみよう。良いニュースは、編集部門に入ったこと。一見地味な部門だが、編集部門は作品賞受賞を予測するうえでの大きなカギだ。1934年以来、編集部門に候補入りしなかった作品が作品部門を受賞したことは11回しかない。しかも、2014年の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』までは34年間連続ですべての作品部門受賞作は編集部門に候補入りしていた。
悪いニュースは、監督部門と演技部門に候補入りしなかったこと。監督部門に候補入りすることなく作品賞を獲ったのは、過去に片手で足りるだけしか例がない。演技部門に入らずして作品賞を獲得した例は、90年以上の歴史の中で両手をちょっと超える程度だ。
ただし、投票者の層が大きく変わる中で、これらの統計はあまり当てにならなくなってきている。たとえば昨年、『コーダ あいのうた』は、編集部門にも監督部門にも候補入りしなかったのに、作品賞をかっさらった。その大きな理由に、作品部門特有の投票方法がある。そこは、もしかしたら『トップガン』にとって強みになるのではと思われるのだ。
作品部門は選考方法が特殊
作品部門に関してのみ、投票者は、ひとつを選ぶのではなく、全作品に順位をつけて投票する。1位に入れてもらった票が最も少なかった作品を落とし、その作品を1位に入れた人の票は2位のものを1位に繰り上げてまた同じ作業をして、最終的にどれかひとつの作品が50%以上から1位に選ばれるようになったら、それが受賞作となる。
このやり方では、好き嫌いが極端に分かれる作品よりも、大部分の人から4番目くらいまでに入れてもらえる映画が強い。そして、それだけの人たちに好かれるのは、純粋に「良かった」「面白かったと思える、感情に訴えかける映画であることが多い。『パラサイト』、『コーダ』は、まさにそうだった。
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