アカデミー作品賞「トップガン」推す声の切実事情 配信に押された映画館の存在意義を取り戻せるか

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『トップガン』も、見た人の中から「面白くなかった」という声は聞いたことがない。見た人はほぼ間違いなく「面白い」という。本投票に向けて『トップガン』のキャンペーンが一番やるべきことは、先入観があってまだ見ていない投票者に映画を見てもらうようにすることだろう。

全世界で14億ドルも稼いだのだから誰もが見ているはずだと思いがちだが、必ずしもそうではないのだ。また、これは『アバター』にも言えることだが、ぜひともビッグスクリーンで見るべき映画であるため、世界中に散らばっている投票者にできるだけ良い形で視聴体験を提供できるかも重要になってくる。

ところで、アワード関係者は、『トップガン』が作品賞を獲る可能性をどう見ているのか。そこはかなり意見が分かれるところで、「可能性は低い」という人も、「十分ありえる」という人もいる。先に述べたように、近年投票者層が変わり、従来の統計に頼れなくなってきたせいで、誰にとってももはや予想は難しいのだ。

そんな中でも、『トップガン』に獲らせるべきだという声は、業界から聞こえてくる。近年、配信に押され、映画館の存続が危ぶまれるようになってきた中で、『トップガン』は映画館で映画を見ることの魅力をあらためて人々に思い出させてくれた。この映画は、映画業界全体に対して、そんな貢献をしてくれたのだ。

エリート志向から脱皮できるか

また、映画は世界中の人々に愛された。毎年数多くの映画が作られても、老若男女、国境を越えてここまで人々を楽しませる映画が出てくることは、そうそうない。

『パラサイト』が外国語映画として初めて作品賞を受賞した時、「アカデミーはなかなかやるな」と人々は感心した。あの瞬間、作品賞はアメリカ映画に与えられるものという無意味な決めつけが破られたのだ。

今年は、「商業的」「アクション映画」という偏見が覆される事になるだろうか。もしそうなれば、アカデミーのエリート志向にうんざりしていた一般人からも、見直してもらえることだろう。近年、アカデミーは、国際的な映画人の団体と自らを位置づけるようになった。だが、彼らは、一般の映画ファンとも視点を共有するのか。作品賞の行方が、その答えをくれる。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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