「原発回帰」大転換に政府審議会委員が激怒する訳 原発推進が前提?発揮されない「聞く力」

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――その後、ようやくパブコメは行われています。

原発回帰の方針を政府が決定した後、昨年末に始まりました。2月に閣議決定が行われるとみられますが、国民の意見がどれだけ寄せられたか、それを示すことは重要だと思います。小委員会で私たちが「方針決定の前に国民の声を聞くべきだ」といっても実現しませんでしたが、1人でも多く参加してほしいと思います。

「事故が収束できなかった場合の強制移転の区域(170キロ圏内)と移転希望を認める区域(250キロ圏内)のシミュレーション。菅直人首相の指示で近藤駿介・原子力委員会委員長(いずれも当時)が作成した「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」を基に作成(出所:菅直人氏のHP)

原発事故からもうすぐ12年

「GX実現に向けた基本方針」のパブコメは、1月22日まで受け付けている。それが終了すれば、ほどなく「3.11」から12年。現在も数万人が避難を続けているほか、現地には政府がバリケードを張って住むことを禁じる「帰還困難区域」が残っている。エリア内は荒れに荒れ、餓死した牛の骨が放置されている場所もある。原発事故以降、政府は避難者支援にも取り組むとしてきたが、実際には避難住宅(約2万世帯)の提供をすでに打ち切り、多くの避難者を苦しめている。

原発事故以降、5人目の首相となる岸田文雄氏は「聞く力」を売り物にしてきた。自民党総裁選では「第1に、民主主義で最も大切な『国民の声』を丁寧に聞いていきます」「『聞く力』は誰よりも優れている」と訴え、総裁、首相となった。しかし、国民の声を聞かずに原発回帰を決めていく様子を見ると、「聞く力」とは何なのかと思わずにはいられない。

青木 美希 ジャーナリスト

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あおき みき / Miki Aoki

札幌市出身。北海タイムス(休刊)、北海道新聞を経て全国紙に勤務。東日本大震災の発生当初から被災地で現場取材を続けている。「警察裏金問題」、原発事故を検証する企画「プロメテウスの罠」、「手抜き除染」報道でそれぞれ取材班で新聞協会賞を受賞した。著書「地図から消される街」(講談社現代新書)で貧困ジャーナリズム大賞、日本医学ジャーナリスト協会賞特別賞など受賞。近著に「いないことにされる私たち」(朝日新聞出版)

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