「原発回帰」大転換に政府審議会委員が激怒する訳 原発推進が前提?発揮されない「聞く力」

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松久保肇
松久保肇(まつくぼ・はじめ)/1979年兵庫県生まれ。2003年国際基督教大学卒、金融機関勤務をへて2012年より原子力資料情報室スタッフ。2016年法政大学大学院公共政策研究科修士課程修了。共著に『検証 福島第一原発事故』『原発災害・避難年表』など(筆者撮影)
政府は昨年12月下旬、「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針案」を策定し、原発の新規建設や運転期間の延長、再稼働推進を柱とする“原発回帰”にかじを切った。2011年の東京電力福島第一原発の事故以来の大きな政策転換になる。
ところが、これだけ大きな判断だったにもかかわらず、政策決定のプロセスには国民の声が反映されていないという。経済産業省の審議会「総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会」委員の松久保肇氏が、その実態を語った。

政府はリスクを背負って原発回帰を決めたのか

「総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会」は、政府のエネルギー基本計画のうち、原発政策を審議する。2014年6月の第1回以来、2022年12月まで35回の会合を重ねてきた。松久保氏は認定NPO 法人・原子力資料情報室の事務局長。2022年2月の第24回会合で、同NPO法人の伴英幸・共同代表に代わって就任した。

――まずは、原発施策についての見解を聞かせてください。

原発事故翌年の2012年に福島原発事故検証委員会(民間事故調)がまとめた報告書を見て、驚きました。そこには、民主党政権の依頼によって原子力委員会委員長の近藤駿介氏(事故当時)に出してもらった、最悪シナリオが掲載されていた。そのシナリオでは、東京を含む原発から半径250キロ圏内は、任意避難の対象となっていた。助かったのは、4号機で水がなかったはずの場所に水があったからです。工事が遅れて水が抜かれていなかったのが原因でした。

「人間の能力の限界を超えたところにある原子力発電のシステムに乗っかっていくのはありえない。まだ原子力を使おうというのが信じられない。原子力はいろんな人の犠牲で成り立っている。このシステムがあったら、当たり前の暮らしができなくなる」と思い、勤務先の金融機関を退職し、民間シンクタンクの「原子力資料情報室」に入ったわけです。

今回、政府は運転長期化を進めることを決めましたが、日本の原発は設計寿命40年で作られている。寿命を過ぎれば過ぎるほど壊れやすくなる。原発は壊れることを許されたシステムでしょうか。海外では地震の少ない国で原発が活用されていますが、地震の多い日本では大きなリスクです。国が滅びるレベルになってくる。政府はそのリスクを背負って原発回帰を決めたのか、非常に疑問です。

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