日本の観光地「陳腐化・老朽化」が止まらぬ4大原因 インバウンド復活も「まったく安心できない」訳

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昨今は特に、デジタルマーケティングといわれる領域での技術面での進化は目覚ましいものがあります。「どう効率的にメッセージを届けるか」については、さまざまな提案を代理店さんからいただくケースも多く、検討の時間やお金の多くを「デジタル広告」と呼ばれるものに投下している事業者さんが増えているように見えます。

しかし、そういったところほど、「そもそも届けるべき価値(=コンテンツ)」がこれまでのままだったり、ほかでやっていることの焼き直しだったり、年々劣化してしまっているのを放置していたりします。

要は、「価値をつくる」ことよりも「どう伝えるか」にばかり重点が置かれているのです。当然ですがこれでは、お客さんにとって魅力的な観光地にはなりえません。

阻害要因4:旧来のままの「経営体制」と「業界構造」

コンテンツを継続的につくっていくためには、各地域の観光事業者の経営を健全化させ、投資資金を確保することが必須です。

しかし、「現状維持バイアス」の強さもあり、経営体制や業界構造にメスを入れての抜本的な経営改善がなされるケースが少ないように見えます。

観光業では「家」と「業」が切り離されきっていない、小規模で分散した経営体が非常に多いです。例えば長野県白馬・大町・小谷エリアには10のスキー場がありますが、スキー場運営事業者(会社)の数は14にのぼります。

大きな資本が必要なスキー場ですら、実際は小規模・分散経営がなされており、効率的な業界構造とは言いがたいのです。

しかし、今後各エリアでしっかりしたコンテンツづくりを進めるためには、これではいけません。

きちんと経営ができる事業者に任せるべき分野は任せ、分業すべき機能は分業してしっかりと規模の経済を働かせ、川上・川下に対する交渉力を強化してコストを適正化しつつ、顧客ニーズに即した正しいマーケティングを行うことが必要なのです。

家業の延長ではなく、産業としてしっかりビジネスを展開することで、地域内にしっかりと次につながる投資余力を生み出していくことが必要なのです。

対処が遅れるほど、改善は難しくなる

これらの変革は、「言うは易く行うは難し」であることは間違いありません。

しかし、時が経てば経つほどコンテンツは陳腐化し、また老朽化してきます。そうなれば経営はますます悪化し、改善は遠のくばかりです。せっかく「隠れた資産」が眠っている観光地が、いよいよ再起不能になってしまいかねないのです。それはあまりにも、もったいない。

そうならないためにも、ここで説明した障害をいちはやく取り除き、全国各地で「隠れた資産」を見つけて磨くアクションを続けていくことで、日本が本当の意味での「観光立国」になることを願ってやみません。

和田 寛 白馬岩岳マウンテンリゾート代表

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わだ ゆたか / Yutaka Wada

1976年生まれ。東京大学法学部卒業後、農林水産省、ベイン・アンド・カンパニーを経て、2014年に白馬で働き始める。

2016~17年の記録的な少雪でスキー場の来場者が激減したことを受け、白馬岩岳マウンテンリゾートの経営者として冬期のスキー客だけに頼らない「オールシーズン・マウンテンリゾート」を目指した改革に取り組む。革新的なアイデアを次々投入した結果、2019年にはグリーンシーズンの来場者数がウィンターシーズンを超え、収益も改善。2022年には18万人(2014年比818%)を超える見込み。

その活躍が大きな話題となり、わずか4年で「ガイアの夜明け」「ワールドビジネスサテライト」など100を数えるテレビ番組に紹介される。

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