一方で特にインフレ抑制法については、EUが独自の優遇政策でアメリカに対抗する可能性に言及し、韓国もWTO提訴の可能性に触れながら、ともにアメリカに条件を見直すように強く求めている。同様にアメリカとFTAを締結していない日本も条件を見直すようアメリカに強く働きかけている。
安全保障上の脅威を理由とした半導体輸出規制強化策と比べて、アメリカのサプライチェーン強靭化策にはバイデン政権の掲げる「中間層のための外交」によるアメリカ国内における雇用政策の側面も含まれており同志国間での調整を一層難しくしている。本特集第1回(アメリカと中国「半導体めぐる強烈な対立」の重み/1月9日配信)での論考の通り、日本とでは経済安全保障の概念が異なる点を意識する必要があるだろう。
経済安全保障に関する同志国間ルールの必要性
ここまで見てきたように、先端技術において経済と安全保障をどのように両立させるか、或いは、自国と同志国との経済的利益をどのように調整するか、といった課題が出てきているが、それはなぜ起こっているのだろうか。
背景として、近年、地政学・地経学の重要性が増し、経済安全保障(若しくは類似の概念)を各国が強く意識するようになったのに対し、経済安全保障に関する明確なルールがなく、同志国間でも思惑が異なるという点が挙げられる。
こうした課題に現実的に対処するためには、しばしばプルリラテラル(Plurilateral)やミニラテラル(Mini-lateral)などと呼ばれる少数の同志国での枠組みを設置し包括的なルールメイキングを中長期視点で実行していく考え方が持ち出されるが、今後はこうした点を一層考慮する必要があろう。
例えば、輸出管理の国際レジームである、現行のワッセナー・アレンジメント(通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理の枠組み)では西側諸国と対立しているロシアをも含めた42カ国の会議体において全会一致で政策を決めるが、先の日米蘭の半導体輸出規制に反対が出ることは想像に難くなく、ワッセナー体制の下でアメリカが行っている対中輸出規制のような内容に合意することは現実的ではないだろう。
そこで現実問題としてワッセナー体制を補完するために、新たな同志国の枠組みにおいて安全保障上の脅威を特定し、どの先端技術を規制するか、規制をどのような基準に基づいて運用するかなどのルール作りが必要になると思われる。短期的には個々の問題を個別に解決せざるを得ないが、中長期的には円滑な政策の実行のために、より包括的なアプローチが必要だろう。産業界の視点から見た場合、企業のコスト増の心配はあるが、企業が何よりも嫌う不確実性を避けるといったメリットにもつながるだろう。
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