「沖縄通貨危機」に命をかけた政治家たち 沖縄返還の裏で行われていた極秘作戦

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琉球行政府の屋良朝苗主席も大会にメッセージを送る。

沖縄の住民は、26年にわたって十字架を負わされてきた。いま、再び、ドル危機によって、住民に犠牲を強いられようとしている時、生活を守ろうとする住民の怒りがここに結集されたことは、当然のことである。わたくしは、この世論を背景に、住民の先頭に立って、問題の解決に全力を打ち込む決意を新たにしている。

 

米国は、もはや返還が決まった沖縄の住民のために救済措置をしようという意志もなければ能力もなく、日本の外務省は米国には相手にされぬとばかりに対米折衝をしようとせず、大蔵省は実務の面からできることはないとの立場で、いずれも「しかたがないこと」と言わんばかり。

ある政治家の命がけの行動

沖縄のために動こうとするものはいないのか。怒りと不安が急速に広がり、不穏な空気さえ漂うところに、鍵を握る人物が現れる。総理府総務長官・山中貞則である。琉球政府副主席・宮里松正との極秘会談の席上、山中は言い放つ。

「沖縄県民のためにお前の命をくれと言ったらくれるか」
「そのときは山中大臣の命ももらえますか」
「おれも自分の首は切れる」

 

政治家が「命がけ」だの「首をかける」だのといったところで何ほどのものかと思いたくなる昨今だが、このときの山中と宮里が合意した内容は、まさに政治家としての生命をかけた、驚くべきものだった。

住民が保有するドル紙幣をすべて確認・検印してその額を確認し、預貯金については金融機関の台帳を封鎖したうえで、債務を差し引いた純資産額を確定し、それぞれについて沖縄返還直後の通貨交換時に日本政府が1ドル=360円の交換率を補償する、というのである。

極秘に勧められる計画

琉球政府はいわば米国政府の下請けであり、米国系の銀行をも含む金融機関の封鎖の権限が与えられているわけではなく、なんらかの理論武装がなければ、命令に従わせることは難しいだろう。だが、米国に通告し、協力をあおぐ交渉を行えば情報は漏れる。この決定が外部に漏れれば、大量の投機ドルが一気に流入し、スキーム自体を破壊するだろう。

あくまでも極秘に準備を進めた上で、全住民の現金・預貯金を一気呵成に確認しなくてはならない。ごくごく一部のものだけが「世紀のドル確認作業」の計画の実行に向けて動き出した。

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