「沖縄通貨危機」に命をかけた政治家たち 沖縄返還の裏で行われていた極秘作戦

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事務作業にあたるごく少人数のものたちは、マスコミを避けて役所を退庁後ひそかにとあるアパートの一室に集まり、缶詰になる。人の気配に明かりを消して、なりを潜めながらの作業である。

土壇場での計画ストップ

保有ドルの確認証の証紙がわりにちょうど発行予定があった記念切手を貼ろうとするが、桁違いの枚数を疑われずにどう発注するのか。また、大量の切手は税関の目を欺いて沖縄に運び込まなくてはならない。荷物の中身を調べられたら秘密が漏れかねないからだ。荷物を「開けさせない」ためにどうするか。山中が水面下で動く。

住民が持参したドル紙幣は、同じ紙幣が何度も確認証を得るための「見せ金」にならぬよう、1枚ごとに検印を押さなくてはならない。当初は直径3センチくらいの「琉球政府」のスタンプをドル紙幣に押印する予定でいた。が、すでに各離島にまでスタンプを持参した職員が配置された土壇場で、大蔵省からストップがかかる。回収したドル紙幣が米国から「汚損した」とねじこまれたら、くず同然になりかねない。

施政権返還に伴う米国資産の買い取りに、沖縄のドルを使うつもりの大蔵省が、おじけづく。「3センチは大きすぎる」というのだ。なにかどんな離島でも手に入るもので、かつ、小ぶりな印を押せるものはないか。苦肉の策で「あるものを使ってチョンと押す」ことを思いつく。

一連の計画に法的根拠を与えるためには沖縄の立法院において「通貨および通貨性資産の確認に関する緊急特別措置法」を通過させなくてはならないが、通貨に関する法案で議会の召集をかければたちまちマル秘作戦がバレてしまう。さてなんと言って議員たちを召集するのか。

次々に浮かび上がる難題

投機ドルの流入を防ぐためには金融機関に強権的にシャッターを降ろさせなくてはならないが、そんなことは前代未聞。短期間に口座の名寄せをするのも気が遠くなるような大変な作業だ。銀行は、公庫は、協力してくれるのか。

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